JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS02] 月の科学と探査

コンビーナ:西野 真木(宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)、長岡 央(宇宙航空研究開発機構)、仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)

[PPS02-P01] 月面上の舌状衝上断層付近におけるボルダー崩れの成因の解明:最大加速度の距離減衰式に基づく震源の推定

*池田 あやめ1熊谷 博之1諸田 智克2 (1.名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻、2.東京大学理学系研究科地球惑星科学専攻)

キーワード:ボルダー崩れ、舌状衝上断層

NASAの月周回衛星に搭載された高解像度カメラLunar Reconnaissance Orbiter Camera(LROC) により得られた画像から月面上に舌状衝上断層が広く分布することが確認された[Watters et al., 2010; 2015]. またKumar et al. [2016]では舌状衝上断層周辺で数m〜数十mサイズの巨礫(ボルダー)が集積したボルダーソースが確認され, さらにそこから斜面に沿ってボルダーが転がり落ちた跡(ボルダートレイル)が発見されている.Kumar et al. [2016]では舌状衝上断層で発生した月震によって断層周辺の斜面で地滑りが発生し,一部のボルダーが移動した可能性が提案されている. しかし, 先行研究では地滑りや月震の規模が定量的に調べられていないなどの問題点がある. そこで本研究では, 最大加速度の距離減衰式を用いた定量的な月震規模の評価にもとづいて, Schrödingerクレータの南側リム領域で発見されたボルダートレイルの原因が近くの舌状衝上断層での月震で説明可能であるかを調査した.
LROCの画像からボルダートレイル及びボルダーソースを探索し, ボルダーが移動し始めた地点の同定を行った. ボルダーが移動しはじめた領域全体を地滑り領域と定義し, その面積を求めた. 地球上のマグニチュードが大きい(M> 5)地震による地滑り面積と最大加速度の間には, 経験的にべき乗の関係があることが知られている[Tiwari and Ajmera, 2017].本研究では重力加速度を月の重力加速度で規格化し, べき乗の関係の係数を求めた. また地球上のM> 5.5の地震のマグニチュードに対する最大加速度と震源距離の経験式である距離減衰式[Kanno et al., 2006]が知られており,震源距離が大きくなるにつれて最大加速度が小さくなる傾向がある. 地震や月震で生じる最大加速度は高周波であるため重力加速度の影響を受けにくいと考えられることから, 本研究では地球上の地震に対して求められた距離減衰式を用いた.更に推定された地滑り面積が小さいため,最大加速度と地滑り面積の関係及び距離減衰式を外挿することで月震での規模を推定した.解析領域付近の舌状衝上断層が月震波を出す断層であると仮定し震源距離を推定すると,本解析の地滑り規模を引き起こす月震はM2クラスであることが推定された. 実際にこの規模の浅発月震はアポロ月震計によって観測されていることから, 今回の結果は舌状衝上断層による月震でボルダーが移動した可能性を否定しない.今後, さらなる検証として, 地すべり領域の空間分布を説明する震源位置の推定を行い, 舌状衝上断層が月震波の発生源であるか否かの検討を行う.