JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS04] Regolith Science

コンビーナ:和田 浩二(千葉工業大学惑星探査研究センター)、中村 昭子(神戸大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻)、Patrick Michel(Universite Cote D Azur Observatoire De La Cote D Azur CNRS Laboratoire Lagrange)、Kevin John Walsh(Southwest Research Institute Boulder)

[PPS04-P02] 模擬低重力下における高速度クレーター形成実験

*木内 真人1岡本 尚也1長谷川 直1中村 昭子2 (1.国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所、2.神戸大学大学院理学研究科)

キーワード:衝突クレーター、高速度衝突実験、低重力

小天体表面における重力加速度は微小であり,クレーターの観測から小天体表面の進化の過程や表面の物性を推定するためには,クレーター直径の重力依存性を理解することが重要となる.クレーターサイズに対する重力の影響について調べた研究は過去にいくつかあり,低重力下および高重力下で様々な速度域(1 m s-1 to 6.6 km s-1)での衝突実験が行われている.これらの実験では,クレーター直径は重力の-0.165 ~ -0.19 乗に比例するという結果が得られている(Gault and Wedekind, 1977; Schmidt and Housen,1987; Cintala et al.1989; Kiuchi et al., 2019)が,一方で,Takagi et al. (2007)では,微小重力下と1 G下でクレーター直径が変わらないという結果も得られている.これらの先行研究の結果の違いの原因は,異なる重力下での衝突実験データが限られていることもあり理解されていない.一方,太陽系天体表面での衝突現象は一般的に数km s-1から数10 km s-1の速度範囲におよび,例えば小惑星帯では平均速度5 km s-1 (Bottke et al., 1994)で衝突するが,高速度域での異なる重力下での衝突実験例は少ないという問題点もある.微小重力実験には巨大な落下塔か放物飛行が一般的に用いられるが,これらの実験装置では秒速数キロメートルでの実験は難しい.また、これらの実験はコストがかかるため,多くの実験を行うことが難しいという問題点もある.
本研究では、高速衝突実験を低重力下で行える装置の開発を行った.宇宙航空研究開発機構(JAXA)施設内にある縦型式二段銃の真空チャンバー内に簡易な落下塔を構築することで、低コストで容易に秒速数キロメートルの衝突速度での微小重力衝突実験を実現する.落下装置は,ボールベアリングとレールを用いることで標的容器が鉛直方向に滑らかに落下するようにした.標的容器を高さ2 mのチャンバー天井付近に電磁石で固定し、電磁石のスイッチを切ることで容器を落下させる.標的容器の落下加速度は容器に固定した加速度計によって計測する.容器に約12 kgの砂を入れて真空下で落下させた場合,0.06 – 0.07 Gの範囲の模擬重力を得た.容器の落下時間は上記の条件で約0.4 sであった.
我々はこの落下装置を用い,高速度での衝突クレーター形成実験を行った.標的にかかる重力が低重力状態の間に弾丸が発射され,クレーターが形成される.高速度カメラで上方向から撮影することで,クレーターの形成過程を観察した.標的には硅砂(粒径~425 μm)を用い,直径30 cm,高さ10 cmのステンレス容器に標的を充填した.弾丸には直径4.76 mmのポリカーボネイト球(密度1.2 g cm-3)を用い,速度1.2 km s-1で衝突させた.結果,0.06±0.03 Gで形成されたクレーター直径は,1 Gで形成されたクレーター直径の約1.8倍であり,明確な重力依存性が観察された.πスケーリング(Holsapple, 1994など)を用いて結果を整理すると,低重力下の結果は砂標的のスケーリング則(Housen and Holsapple, 2011)に合うことがわかった.注意として,低重力下での実験では容器が落下するまでにクレーターの形成が終わっていない可能性があるため,本実験で扱ったクレーター直径は最終クレーター直径の下限値を表す.発表ではクレーター形成時間についても議論し,さらに実験データを増やした結果を紹介する.