JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS06] Science of Venus: Venus Express, Akatsuki, and beyond

コンビーナ:佐藤 毅彦(宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部)、Kevin McGouldrick(University of Colorado Boulder)、佐川 英夫(京都産業大学)、Thomas Widemann(Observatoire De Paris)

[PPS06-P08] 光電子倍増管を利用した地上望遠鏡による惑星雷放電発光の観測

*大野 辰遼1高橋 幸弘1佐藤 光輝1渡部 重十1高木 聖子1今井 正尭2 (1.北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻、2.国立研究開発法人 産業技術総合研究所)

キーワード:金星、雷放電、地上望遠鏡、光電子倍増管、LAC

惑星大気の大規模構造や,大気組成を構成する化学反応を理解する上で,雷放電観測の有用性が示唆されている.これまで地球以外で雷放電発光が観測されたのは木星である.木星では,雷放電を伴う積乱雲の活動が東西風分布と関係があるという仮説がある.積乱雲の多波長観測だけでは雲層の上層での変化しか観測できない.一方で,雷放電の観測は雲層以下の鉛直対流といった惑星大気活動のモニタリングが可能になると期待できる.また,木星大気分子の一部は雷放電によって形成されているという説もある.大気組成の形成プロセスを理解する上で,雷放電に関して理解することは重要である.金星では,地球と同じ氷晶,もしくは硫酸の雲粒が電荷分離を引き起こし,雷が存在していると考えられている.しかし,雷放電の存在は20年以上議論され続けている.電波観測や,CCDを用いた光学観測が行われてきた.しかし,電気的なノイズ,他のプラズマ波動現象との区別が難しいということや,観測領域が限定されてたということ,CCDの感度が雷放電発光に十分でなかったことから,雷放電の存在に対していまだに確たる証拠は得られていない.金星で雷放電の存在を確認することができれば,木星同様に金星の大規模な大気運動や大気組成の理解につながる.本研究の目的は,北海道大学の所有する有効径1.6 mのピリカ望遠鏡に搭載する雷観測装置を開発し,金星を数ヶ月以上の期間,合計で数十時間以上観測する.これにより金星の雷の光度変化曲線,領域,発生頻度を明らかにする.そのデータを風速分布や雲分布と比較することで,雷と惑星大気運動との関係性を明らかにする.

開発した雷観測装置 Planetary Lightning Detector (PLD) は,主に金星,木星の雷放電発光を観測できるように設計された.先行研究から,金星雷放電発光は777 nmで明るく光ると考えられている(Borucki et al.,1996).PLDには,FWHMが1 nmの777 nmのナローバンドフィルタが搭載されている.このフィルターを通した光を,光電子倍増管で最短50マイクロ秒の露光時間,約2x104 points/s の時間分解能で観測することができる.また,視野角を5,10,30,60 秒角の円形のピンホール,2x11 秒角の長方形のスリットに変更することができる.金星はピンホール,スリットを適宜交換して夜面の観測を行う.観測したデータに対して,バンドパスフィルタをかけることで,ランダムノイズ,雲などによる揺らぎを取りのぞき,平均値より大きくカウント値が増える波形を探す.2020年1月からこれまで観測された金星のデータでは,カウントの平均値より標準偏差の3倍以上増加したイベントが数点観測された.それらのイベントは,金星上で777 nm の発光エネルギーが109から1010 J と見積もられた.しかし,カウントの増加した時間が2 ms以下と短く,別日のSkyの観測結果で得られた宇宙線の波形と酷似していることから,今回の観測では宇宙線のイベントを観測したと考えられる.PLDによるこれまでの金星の合計観測時間は数時間程度であったので,雷の発生頻度を明らかにするには不十分であったと考えられる.今後観測時間を増やしていき,露光時間を1 msより短くすることで宇宙線など他のイベントと雷放電発光と区別するために雷の光度変化曲線の取得を目指す.

今回の発表では,開発した雷観測装置 PLD の紹介を行う.そして,2020年1月からこれまでの金星を観測した結果を示し議論する.また,金星内合ごろに金星探査機あかつきに搭載されたLAC (Lightning and Airglow Camera)との連携観測の計画についても報告する.