[PPS07-08] 小惑星リュウグウのクレーターと周辺ボルダーの関係に着目した表層の層構造の推定
キーワード:はやぶさ2、太陽系小天体、地下構造、ブラジルナッツ効果
探査機「はやぶさ2」の観測により、C型小惑星リュウグウの地形の特徴が明らかになった[1,2,3,4]。リュウグウは母天体の破壊破片が集積してできた赤道直径約1 kmのラブルパイル天体であり[1]、表面には、100個近くのクレーター[2,3]や全球にわたって多数のボルダー[2,4]が存在する。クレーターと周辺ボルダーの関係に注目すると、より大きなクレーターでは、内部と周囲のボルダー数密度は同程度だが、比較的小さなクレーターでは、内部でのボルダー数密度が周囲と比べて低い傾向が見られた。このような両者の関係は、地下構造を反映している可能性がある。そこで、リュウグウの地下構造の推定するために、大きさ、深さの異なるクレーターについて、内部と周辺のボルダー数密度の関係を定量的に調べた。
はやぶさ2搭載の光学望遠カメラONC-Tの画像を用いて、クレーター内外それぞれにおける平均直径s が1 m以上のボルダーを計測し、その累積サイズ頻度分布(CSFD)を求めた。解析には、高度2.7 kmからの画像と、一部のクレーターについてはより高解像度画像を使用した。[3]でリストアップされたクレーターのうち、±20°より低緯度側の帯にあり、円形のくぼみ(リムの有無は問わない)で、[5]に基づき、深さが5–6 mであるものを網羅的に抽出し、さらに本研究で新たに発見された2個と合わせて、計21個のクレーターを解析した。そして、ボルダーCSFDの回帰直線から、クレーター内外にあるs ≧1 mのボルダー数密度Nb,in, Nb,outと内外数密度比Nb,in/Nb,outを算出した。結果を検証するために、衝突装置SCIによる人工クレーター[6]の生成前後の画像を使用し、同様の解析を行った。
解析の結果、クレーターの深さdと内部のボルダー数密度Nb,inの間には、明確な依存性は見られなかった。しかし、dとNb,in/Nb,outの間には、以下の注目すべき依存性を得た(図1)。(A) d < 2.2 mであるクレーターでは、Nb,in/Nb,out = 0.4–0.6で、これはSCIクレーター(d = 2 m)での結果と整合的である。(B)一方、d ≥ 4.0 mであるクレーターではNb,in/Nb,outは、~1かそれ以上である。(C)それらの中間の深さ(2.2 m ≤ d < 4.0 m) のクレーターでは、Nb,in/Nb,outは分散し、クレーターサンプル数は少ないものの、東西半球での地域差(西半球ではNb,in/Nb,out ~ 1だが、東半球では0.4–0.7)がうかがえる。
これらの結果から、推定される地下の層構造は、ボルダーの少ない第2層がボルダーの多い第1層と第3層に挟まれた三層構造である。このような層構造は、いわゆるブラジルナッツ効果によって形成された可能性がある[7]。そして、第2層と第3層の境界の深さは、西半球で ~2.2m、東半球で ~4 mと推定される。東西での境界の深さの違いは、西半球の第2層が東半球よりも薄いことを示している。このことは、西半球の年代がより若い可能性を示唆する。
[1] Watanabe et al. (2019), Science 364, 268.
[2] Sugita et al. (2019), Science 364, 252.
[3] Hirata et al. (2020), Icarus 338, 113527.
[4] Michikami et al. (2019), Icarus 331, 179.
[5] Noguchi et al. (2020), submitted to Icarus.
[6] Arakawa et al. (2020), submitted to Science.
[7] Maurel et al. (2017), MNRAS 464, 2866.
はやぶさ2搭載の光学望遠カメラONC-Tの画像を用いて、クレーター内外それぞれにおける平均直径s が1 m以上のボルダーを計測し、その累積サイズ頻度分布(CSFD)を求めた。解析には、高度2.7 kmからの画像と、一部のクレーターについてはより高解像度画像を使用した。[3]でリストアップされたクレーターのうち、±20°より低緯度側の帯にあり、円形のくぼみ(リムの有無は問わない)で、[5]に基づき、深さが5–6 mであるものを網羅的に抽出し、さらに本研究で新たに発見された2個と合わせて、計21個のクレーターを解析した。そして、ボルダーCSFDの回帰直線から、クレーター内外にあるs ≧1 mのボルダー数密度Nb,in, Nb,outと内外数密度比Nb,in/Nb,outを算出した。結果を検証するために、衝突装置SCIによる人工クレーター[6]の生成前後の画像を使用し、同様の解析を行った。
解析の結果、クレーターの深さdと内部のボルダー数密度Nb,inの間には、明確な依存性は見られなかった。しかし、dとNb,in/Nb,outの間には、以下の注目すべき依存性を得た(図1)。(A) d < 2.2 mであるクレーターでは、Nb,in/Nb,out = 0.4–0.6で、これはSCIクレーター(d = 2 m)での結果と整合的である。(B)一方、d ≥ 4.0 mであるクレーターではNb,in/Nb,outは、~1かそれ以上である。(C)それらの中間の深さ(2.2 m ≤ d < 4.0 m) のクレーターでは、Nb,in/Nb,outは分散し、クレーターサンプル数は少ないものの、東西半球での地域差(西半球ではNb,in/Nb,out ~ 1だが、東半球では0.4–0.7)がうかがえる。
これらの結果から、推定される地下の層構造は、ボルダーの少ない第2層がボルダーの多い第1層と第3層に挟まれた三層構造である。このような層構造は、いわゆるブラジルナッツ効果によって形成された可能性がある[7]。そして、第2層と第3層の境界の深さは、西半球で ~2.2m、東半球で ~4 mと推定される。東西での境界の深さの違いは、西半球の第2層が東半球よりも薄いことを示している。このことは、西半球の年代がより若い可能性を示唆する。
[1] Watanabe et al. (2019), Science 364, 268.
[2] Sugita et al. (2019), Science 364, 252.
[3] Hirata et al. (2020), Icarus 338, 113527.
[4] Michikami et al. (2019), Icarus 331, 179.
[5] Noguchi et al. (2020), submitted to Icarus.
[6] Arakawa et al. (2020), submitted to Science.
[7] Maurel et al. (2017), MNRAS 464, 2866.