JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] Mars and Mars system: results from a broad spectrum of Mars studies and aspects for future missions

コンビーナ:宮本 英昭(東京大学)、臼井 寛裕(東京工業大学地球生命研究所)、原田 裕己(京都大学理学研究科)、Sushil K Atreya(University of Michigan Ann Arbor)

[PPS08-P01] 火星衛星フォボス表層レゴリスの物理特性理解のための多孔質粒子の熱伝導率に関する実験的研究

*高野 安見子1坂谷 尚哉1宮本 英昭2臼井 寛裕1新原 隆史2パル ベルナデット3岩田 隆浩1 (1.国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構、2.東京大学、3.ハンガリー科学アカデミー)

キーワード:火星衛星フォボス、表面物性、熱伝導率計測実験、高空隙粒子、熱慣性

火星には2つの衛星、フォボスとダイモスが存在している。火星衛星の起源を知ることは、火星史の解明において重要である。日本の次期サンプルリターンミッションに火星衛星探査計画MMXが選定されており、対象天体の表面状態の理解は、その表面の地質学的情報が得ることにつながるだけでなく、サンプルリターンミッションの技術開発の観点からも重要である。

本研究ではフォボスの表面状態を推定するためのパラメータとして、「熱慣性」に着目した。熱慣性は表面温度を決定する主要因であり、火星衛星の表面状態(密度・粒径)を知るための重要なデータの一つである。過去の火星周回衛星による赤外観測によりフォボスの熱慣性をおよそ70 J m-2K-1s-1⁄2と推定した例がある[1]。フォボスは、小惑星探査機はやぶさ2が探査したC型小惑星リュウグウ、およびOSIRIS-RExが探査したB型小惑星ベヌーと同様に始原天体である可能性がスペクトル観測によって得られたデータによって示唆されている[2]。始原的な天体であるリュウグウおよびベヌーの表面は高い空隙率の粒子で覆われているため[3, 4, 5]、観測によって始原天体と考えられているフォボスの表面も粒子自体が高空隙率である可能性がある。しかし、そのような物質に対する熱物性に関する実験的研究は不足している。フォボス表層の粒子の物性を知るためには高空隙率粒子の熱特性について理解することは不可欠である。

本研究では、そのような試料の熱伝導率に関する実験的な研究を行い、多孔質粒子系の熱輸送メカニズムを理解すること、およびフォボス等の始原天体の表面状態(粒子サイズ、かさ密度)を熱慣性データから明らかにすることを目指した研究を行なっていく。本研究はフォボス表面の地質学的な背景の理解を深めるだけでなく、MMX着陸地点選定に代表されるような将来の探査の検討手法を提供することにも直結する。

本発表では、フォボス土壌模擬物質[6, 7]とガラスビーズをサンプルとして、真空中での熱伝導率計測実験を行った結果について報告する。UTPS は人工的に生成した粒子内部に多くの空隙を含むサンプルであり、MMXミッションでのフォボス表層のリファレンス物質として利用されている。UTPSとガラスビーズの熱伝導率計測結果に基づいて、粒子内部の空隙の有無が熱伝導率に与える影響に関して考察を行う。

引用文献
[1] Smith, N. M. et al. (2018) LPSC XLIX, abst#2083. [2] Murchie, S. et al. (1999) Jour. Geophys. Res.: Planets, 104(E4), 9069-9079. [3] Grott, M. et al. (2019)Nat. Astron., 3, 971-976. [4] Okada, T. et al., (2020) Nature(in print). [5] DellaGiustina, D. et al. (2019) Nat. Astron., 3, 341–351. [6] Miyamoto, H. et al. (2018) LPSC XLIX, abst#2083. [7] Miyamoto, H. & Niihara, T. (2020) Nat. Resour. Res., 1-10.