JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 惑星科学

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、嵩 由芙子(会津大学)

[PPS09-01] 自由落下ダスト流に形成するクラスター間衝突過程の観測

*長足 友哉1中村 昭子1長谷川 直2和田 浩二3 (1.神戸大学、2.宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所、3.千葉工業大学 惑星探査研究センター)

キーワード:原始惑星系円盤、ダストアグリゲイト、衝突

はじめに:
原始惑星系円盤における微惑星の形成過程において、ダストアグリゲイトが衝突付着成長できる限界サイズが重要である。それに関して、容器内に閉じ込められたミクロンサイズのモノマーからなる数百ミクロンサイズのアグリゲイトが微小重力下で相互衝突する室内実験(Kothe et al., 2013等)や、数値研究(Wada et al., 2009等)が行われている。室内実験と数値計算で成長限界衝突速度はおおよそ一致するが、数値計算では起こらない跳ね返りが室内実験で確認されている。その原因の一つとして、上記の実験では容器とアグリゲイトの衝突によってアグリゲイト表層が内部よりも一層圧密されることによって跳ね返りが起こりやすくなっている可能性がある。そこで新しい実験手法として、自由落下ダスト流に形成するクラスター間衝突実験を構想した。これまでに、メジアン径45 µmのガラスビーズからなるクラスターの充填率が~0.3であることを確認した。この充填率は、ビーズ間の配位数~2-6に相当する。この配位数をもつ数値計算のダストアグリゲイトでは跳ね返りが起こらないため、自由落下粒子流に形成するクラスターの相互衝突であれば跳ね返りは起こらないと予測した(長足他、日本天文学会2019年秋季年会)。本研究は、このクラスター間衝突実験を実現し、その衝突プロセスを観察することで、クラスターの付着成長の可能性を議論することを目的とする。

実験方法
真空チャンバーの上部にダスト流発生機構とデジタルカメラを設置し、ダスト流を発生させた後、デジタルカメラがシャフトに沿って落下しながらダスト流を撮像する。左右で異なる傾斜を持つ6 mm × 6 mmサイズのノズルから二本のダスト流を発生させることで、ダスト流が互いに水平方向に速度をもつため、クラスター間衝突が可能となる。使用したカメラの撮像間隔は960 fpsで、空間分解能は32 µm/pixelである。粒子としては上記のガラスビーズを使用し、0.1気圧で実験を行った。

結果と議論:
今回の実験セットアップで形成したクラスターの幅は3 mmで、クラスターが2:1:1の軸比を持つ楕円体だと仮定すると、以前推定された充填率をもとにクラスターの構成粒子数は十数万と推測される。今回、~9 cm/sのクラスター間衝突速度を実現し、その衝突過程を撮像した。衝突後の観測時間の0.06秒の間ではクラスター間の「跳ね返り」は起こらず完全合体した。つまり、少なくともこの衝突速度でクラスターは「破壊」しないことが確認された。一方、本研究で用いたガラスビーズについて、大気圧下で遠心加速法により測定した付着力は~0.5 µNであった(Nagaashi et al., 2018)。この付着力をもつ直径45 µmの表面が滑らかなガラス球からなるアグリゲイトの成長限界衝突速度は、ダストアグリゲイト衝突の数値シミュレーションの結果から~1 cm/sと予想され(Wada et al., 2009)、今回の結果とは合わない。このことから、ダスト流クラスターはダストアグリゲイトの数値計算の予想よりも何らかの理由で「付着成長」しやすいのかもしれないが、その原因は特定できていない。もしくは、チャンバー内を0.1気圧まで減圧することによりガラス球の付着力が大気圧下で測定した値よりも増加していたのかもしれない。また、衝突前後でのクラスターの体積変化はデジタルカメラ画像で確認されなかった。衝突前後でクラスターを構成する粒子の増減はないので、このことは衝突前後で充填率に検出可能な変化がなかったことを意味する。