[PPS09-13] 月極域氷探査のための微量氷着氷実験装置の活用と月模擬土壌を用いた近赤外スペクトル観測
キーワード:月極域リモートセンシング、月の氷、近赤外スペクトル
近年、月の極域において水氷の存在を示唆する報告がいくつも上がっているが、水の形態や量に関しては議論が続いている。1998年に打ち上げられたLunar Prospector の中性子分光観測によって、極域での水素の濃集が確認された(Feldman et al., 2001)。2009年打ち上げのLunar Crater Observation and Sensing Satellite(LCROSS)では南極のCabeusクレーターに衝突した際のダストを分光観測することで、5.6±2.9wt%の水氷の存在が示唆された(Colaprete et al., 2010)。さらに、Chandrayaan-1の近赤外分光観測結果とLunar Reconnaissance Orbiterが計測した表面温度の分布などの情報から、月極域の表面に水氷が分布していることが推定された (Li et al., 2018)。2017年12月には宇宙航空研究開発機構(JAXA)とインド宇宙研究機関(ISRO)によって月極域での水資源探査計画の検討が始まった。この極域探査において、我々は近赤外画像分光によるその場観測を提案しており、月面または掘削した穴の側面の近赤外スペクトルから水の含有量を推定することを目指している。我々はこの探査に向けて、実験室での粉体への着氷実験装置を開発した (2019年惑星科学会)。これは極低温環境でコールドトラップされた水氷の粒子が月レゴリスに付着して存在している状態を想定したものである。この装置によって作られた鉱物粉体の着氷試料は、開発した近赤外線分光装置 (LPSC, 2019) を使用し、波長範囲850~1700nmの範囲にて近赤外線分光観測を行った。2019年惑星科学会では、粒径125~250umのかんらん石と斜長石の粉体を着氷させて分光観測を行い、斜長石試料の方がband depthが深く少ない量の氷の検出が可能であると報告した。しかし月レゴリスの粒径はほとんどの場合100umを超えないとされている(Hapke(1968); King et al.(1971)など)。そのため、さらに細粒な粉体試料に対して着氷および分光観測実験を行った。また、得られた分光実験データをHapke (1993) による粉体の混合試料スペクトルモデルと比較して評価した。2019年惑星科学会にて鉱物粉体を着氷させると全体的にスペクトルが明化し、波長1500nm付近に水分子の吸収線が現れたことを報告したが、今回の細粒かんらん石粉体試料を用いた実験では、着氷によるスペクトル明化の度合いがより小さくなることが確認された。また、これらの結果はHapkeの混合試料スペクトルモデルで予測された傾向と整合的である。JpGUの発表では、鉱物粉体試料の着氷スペクトルの明化度合や、水の吸収深さについて定量的な議論を行う。