JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 惑星科学

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、嵩 由芙子(会津大学)

[PPS09-15] 磁気トルクによる回転原始火星大気の形成と衛星軌道進化

*松岡 亮1倉本 圭1 (1.北海道大学大学院理学院宇宙理学専攻)

キーワード:火星衛星、衛星形成

火星の衛星のフォボスとダイモスは,その小さな半径(数km~10km程度)と不規則な形状,低いアルベド,始原的炭素質小惑星に類似した反射スペクトルを有することから,微惑星を捕獲したものであるとする捕獲説が提唱されてきた.

しかしながら,火星の衛星は火星赤道面に沿った真円軌道を有し,単純な捕獲のみではこれらの軌道特徴を説明することが困難である.ジャイアントインパクト仮説 (e.g. Rosenblatt et al. 2016) はこのような衛星の軌道特徴をよく説明するが,衛星形成時に2,000Kの高温環境を経験するため (Hyodo et al. 2018) ,反射スペクトルから類推される始原的炭素質組成とは相いれない.これまで,火星衛星の整った軌道を捕獲説の枠組みで説明するために,衛星軌道進化のための軌道エネルギー散逸媒質として,原始太陽系星雲ガスが火星に重力束縛されて生じる原始火星大気による抗力が提唱されてきた.先行研究 (Hunten 1979; Sasaki 1990) では球対称静止大気の場合について検討がなされ,衛星の離心率は減衰可能であることが分かったが,大気が静止しているため傾斜角は原理上減衰できない.回転大気についての検討は松岡・倉本 (2018; 2019, JpGU) で行われた.静止軌道半径以遠で回転速度が距離のべきで減衰する場合では,傾斜角減衰が104 yrという短いタイムスケールで効率よく起こり,静止軌道半径付近での衛星形成 (Burns 1990) も説明可能であることがわかった.しかしながら,これらの研究では回転速度場を人工的に与えており,角運動量のソースや大気構造の妥当性の検討は十分になされていない.

本研究では,大気の角運動量のソースとして,火星にかつて存在していたと考えられる双極子磁場との相互作用を考慮し,大気回転速度場の進化を検討した.円盤深部の火星近傍領域であっても,放射性核種の壊変により大気は弱電離し,回転する火星磁場は大気に角運動量を渡すことが可能である.大気が受けるトルクは,その場の磁束密度に依存しているため,速度分布は距離に強く依存する. 放射性同位体比を40K/H=1.5×10-10とし (Consolmagno and Jopikii 1979) ,10Gの火星赤道磁場の下では,104-105 yrのオーダーで静止軌道以内の大気を火星と共回転させることができ,円盤寿命(~107 yr)では十数火星半径の領域まで大気を回転させる.したがって,火星磁場は,Kepler回転大気よりも低い角運動量を持つ回転大気を実現可能な角運動量ソースであり,衛星軌道進化を効率よく引き起こせることがわかった.