JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 惑星科学

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、嵩 由芙子(会津大学)

[PPS09-20] 多孔質氷上のクレーター形成に伴う衝突残留温度の計測

*笹井 遥1保井 みなみ1荒川 政彦1中村 誠人1 (1.神戸大学)

キーワード:クレーター、氷、衝突残留熱、多孔質

背景:

最近の惑星探査や天文観測では、生命の起源につながる物質として有機物が注目されている.隕石母天体中では、有機物が液体の水と反応することでアミノ酸等を生成すると考えられている.また,ケイ酸塩,有機物,炭素質微粒子を含む氷微粒子で構成される彗星では,天体衝突時に発生する衝撃圧縮で高温・高圧状態が発生し、本来極低温である彗星での化学反応を促進すると指摘されている。例えば,衝突現象により高分子の有機物が生成されることが,スターダストミッションによるテンペル第1彗星に対するインパクター衝突実験や衝撃波によるアミノ酸重合実験(Sugahara and Mimura, 2015)などで示されている.従って,彗星や太陽系外縁天体のような氷天体上での有機物の化学進化を考える上で,天体衝突時の温度上昇および液体の水の生成の有無が重要であると考えられる.さらに、温度上昇に伴って様々な揮発性物質が気化し,天体表面および内部の化学組成が変化することや,衝突溶融がクレーター形成過程に影響を及ぼすことも考えられる.一方、これまでに天体衝突時の表面温度上昇を衝突閃光から求めた実験例はあるが,表面および内部の温度を直接測定する実験は行われていない.そこで本研究では,多孔質氷天体上で液体の水が高速衝突により生成するかどうかを検証することを目的とし,多孔質氷天体を模擬した標的内部の衝突残留温度を熱電対を用いて測定した.また実験後の試料の断面から溶融の様子を観察し,溶融量の測定を試みた.



実験:

多孔質氷天体を模擬した標的の空隙率は50, 60%とし,焼結期間は-20 ℃下で2~6日と変化させた.この標的は,水氷のブロックをミキサーで砕いて作成した粒径数100 mmの氷微粒子をアクリル容器に均一に詰めて圧密して作成した.圧密前に標的内部にK熱電対(線径:0.127 mm, 応答速度:10 ms)を標的中心から0~15 mm, 深さ10~15 mmに設置し,氷微粒子とともに圧密した.衝突実験は2段式軽ガス銃(神戸大学)を用いて低温室(-15 ℃)内で行った.実験条件は衝突速度は約4 km/s,真空度は240 Pa以下とし,弾丸には直径2 mmのアルミニウム球とナイロン球を用いた.温度測定にはデータロガーを用いた.また実験時に試料に蓋をすることでエジェクタの回収も行った.実験後は標的を切断して断面を観察し,さらに標的を710μmのふるいにかけて,実験前よりも溶融により粒子が成長したものを分離することで溶融質量の計測を試みた.



結果:
クレーター形状は,全てのクレーターで,スポール領域とpit領域の二つで構成されており,強度支配域のクレーターであることが確認された.弾丸は,標的内部に潜り込んでいた.クレーター壁とクレーター底部付近には,未溶融氷粒子と溶融混合物(溶融氷粒子と溶融・破壊した弾丸が混ざり合ったもの)の堆積が確認された.計測された温度上昇は,約4K〜約20Kであり,測定位置により変化した.特に溶融混合物に近い領域では,温度が0℃を超えており,水への相転移が起きたことを示す温度変化を確認した.図に0℃を超えた実験結果の一例を示す.衝突時刻を0としている.凡例は溶融混合物からの距離を表しており,距離が離れるほど温度上昇が小さくなることがわかる.溶融混合物の内部では,衝突から数10 msで最高温度に達し,溶融混合物からの距離が大きくなるほど遅れて最高温度に到達した.