JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 惑星科学

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、嵩 由芙子(会津大学)

[PPS09-P01] 極低温下における多孔質氷のクレーター形成実験:重力支配域のクレータースケール則の構築

*保井 みなみ1尾山 鈴乃2高木 希2荒川 政彦1 (1.神戸大学大学院理学研究科惑星学専攻、2.神戸大学理学部惑星学科)

キーワード:クレーター形成実験、多孔質氷、極低温、クレータースケール則、重力支配域

月以外の固体天体の表面年代の推定には、クレーター年代学に対し、対象天体の表面物質のクレーターサイズスケール則を導入する必要がある。本研究で対象としている氷衛星は、その表面がクレーター掘削時のエジェクタ粒子が降り積もって形成されたレゴリス層で覆われていると考えられており、さらに表面温度が非常に低いことから、未焼結状態であると推測される。このような未焼結レゴリス層をもつ氷衛星のクレーター年代学に対しては、氷粒子層の重力支配域のクレーターサイズスケール則を用いる必要がある。しかし、これまで室内実験において、氷粒子層の重力支配域のクレーターサイズスケール則は調べられていない。なぜなら、氷粒子は冷凍庫内の温度では短時間で焼結するため、強度をもつ氷粒子層となるためである。そこで本研究では、極低温下(210K以下)で衝突実験を行う手法を確立し、氷粒子層(雪層)へのクレーター形成実験を行い、重力支配域の氷のクレーターサイズスケール則を構築した。

標的には粒径710μmの氷粒子を用いた。この氷粒子を標的容器に入れる際に、氷粒子と容器内に数回液体窒素を入れる事で、極低温状態を保った。雪層の空隙率は50%である。また、標的容器の底及び標的表面にK型熱電対を設置し、真空引き中及び実験直前・直後の温度を計測した。実験時の標的温度は110〜210K(標的底部)である。弾丸は直径2mmのナイロン、アルミ、チタン、鉄、真鍮球を用いた。実験は神戸大学の縦型一段式軽ガス銃を用いた。衝突速度は77〜168m/sである。標的は真空チャンバー内に設置し、100Pa以下まで真空に引いた。衝突の様子を高速カメラで撮影し、エジェクタカーテンが成長する様子を観察した。また、実験後に標的を回収し、クレーターの直径及び深さを測定した。エジェクタカーテンの成長過程とクレーターの形状から、クレーター形成時の雪層の焼結状態を判断した。

標的温度とクレーター直径の関係を調べた結果、同じ弾丸・衝突速度の場合、温度が160K以下になるとクレーターサイズが約1.5倍大きくなることがわかった。高速カメラ画像を確認すると、強度支配域で見られるエジェクタの不連続性が160K以上で確認され、クレーターリムが不明瞭になったことから、この温度を境に強度支配域と重力支配域に分かれることが示唆された。そこで、160Kを境界温度として、低温側でそれぞれクレーター直径Dと運動エネルギーEkの関係を調べた。その結果、D=aEkbの関係が得られ、a=51.5、b=0.17となった。また、Arakawa & Yasui [1]の15分焼結した258Kの実験結果と比較すると、低温の結果は同じ運動エネルギーで1.5倍大きくなることがわかった。

この低温の結果を用いて、クレーターサイズスケール則を調べた。スケール則は、衝突条件に関する無次元量π2(=rpg/vi2rpは弾丸半径、gは重力加速度、viは衝突速度)とπ4(=ρtp、ρtは標的密度、ρpは弾丸密度)と、クレーター半径に関する無次元量πR(=Rt /mp)1/3Rはクレーター半径、mpは弾丸質量)を関係付けた式、πR=K1π2pπ4qで示される。本研究の結果、重力支配域の氷のスケール則はπR=0.55π2-0.17π40.20と示された。この結果は、Tsujido et al. [2]の石英砂の結果とほぼ一致し,本研究の低温の雪の結果が重力支配域のスケール則で説明できるということが証明された。また、ベキpからスケーリングパラメータと呼ばれるμを計算した結果、0.41と得られ、先行研究の砂の値[3]と一致した。

[1] Arakawa & Yasui (2011), Icarus 216, 1–9. [2] Tsujido et al. (2015), Icarus 262, 79–92. [3] Housen & Holsapple (2011), Icarus 211, 856-875.