[PPS09-P02] D型小惑星模擬標的の衝突破壊実験
キーワード:衝突破壊、D型小惑星、タギシュ・レイク隕石
背景
太陽系内のD型小惑星は小惑星帯の外側にあるヒルダ群やトロヤ群に存在する他、火星衛星のフォボス、デイモスも反射スペクトルはD型小惑星に近いとされている*1。また、地球上に存在する隕石として、反射スペクトルからD型小惑星に近いとされているのがタギシュ・レイク隕石である。この隕石は炭素質コンドライトの中でも化学組成や酸素同位体比はCM、CIコンドライトと一致せず、既存の化学グループには属さない、特異かつ始原的で希少な隕石とされている*2。
いくつかのコンドライトもしくはその模擬物について、衝突破壊強度や衝突破片の再集積条件がこれまでに研究されている。例えば3つの普通コンドライト(OC)と1つの炭素質コンドライト(CV)の衝突破壊強度Q*はおよそ1400 J/kgであり、これは地球上の岩石の2倍近くである*3。また、普通コンドライトの母天体の模擬物を用いた実験から、普通コンドライトの母天体のカタストロフィック破壊後の衝突破片は、半径が3 kmより大きい天体であるとコンドリュールのサイズによらずに再集積することが推定されている*4。本研究ではタギシュ・レイク隕石の組成をもとにして作られた火星衛星フォボスのシミュラント(UTPS-TB)*5を標的とした衝突破壊実験を行い、D型小惑星の衝突破壊強度や衝突破片の再集積条件を調べることを目的とした。
実験
試料の密度は1.43±0.04 g/㎤であった。シミュラントの組成がタギシュ・レイク隕石と同じだと仮定したところ、空隙率は46 %に相当する。引張強度と圧縮強度はそれぞれ、直径20 mm、高さ6-21 mmの円柱について荷重速度0.001 mm/sで測定した。その結果それぞれ、0.222±0.087 MPa、1.11±0.31 MPaであった。
JAXA宇宙科学研究所の横型二段式ガス銃を用いて、1/8 インチのナイロン球弾丸を衝突速度4.1-5.3 km/sで標的に衝突させる衝突実験を行った。標的は試料を1辺約5 cmの立方体に切り出したものを用いた。また、破片速度を解析するために、高速度カメラを真横から2台、真上から1台設置し、撮影を行った。
結果
衝突後の試料の破片は、他の破片に対してひと際大きい最大破片、一回り小さいサイズの破片がいくらか、そして粉々になった破片の、大きく分けて3つのグループに分かれた。それぞれの実験における最大破片の質量をm1、標的のもとの質量をMtとし、それぞれの最大破片質量割合(m1/Mt)とエネルギー密度(系の単位質量あたりの弾丸の運動エネルギーで定義される)Qの間に、経験式m1/Mt = 103.05±1.44・Q-1.11±0.48が求められた。この式より最大破片質量割合が0.5となる衝突破壊強度Q*を求めると、Q*= 1000 J/kgとなった。これはOCやCV*1と同程度である。また、石膏*4, 5と比べると壊れやすく、ガラス*6と比べると壊れにくいこともわかった。
次に、衝突破片の再集積条件を調べるために、最大破片質量割合と破片速度の関係についての解析を行った。高速度カメラ画像を用いて標的の弾丸衝突面の角の速度を測定し、その後重心系の速度になるよう計算した。カタストロフィック破壊時、つまりm1/Mt=0.5で先行研究と比較すると、破片速度は石膏*2とほぼ同値で、普通コンドライトの模擬物*2よりおよそ4-5倍速いことがわかった。これより、カタストロフィック破壊時におけるフォボスシミュラント(UTPS-TB)で構成された天体の再集積のしやすさは、石膏(空隙率約50%)とほとんど同じであり、普通コンドライトの模擬物で構成された天体(空隙率約35%)よりも再集積しにくいと考えられる。
参考文献
1 Fraeman, A. A., et al. (2014), Icarus, 229, 196-205.
2 Hiroi, T. et al. (2001), Science, 293, 2234-2236.
3 Flynn, G. J. and Durda, D. D. (2004), Planet. Space Sci., 52, 1129-1140.
4 Yasui, M. and Arakawa, M. (2011), Icarus, 214, 754-765.
5 Miyamoto, H. et al. (2018), LPSC 49th, Abstract #1882.
6 Kawakami, S., et al. (1991), A & A, 241, 233-242.
7 Okamoto, C. and Arakawa, M. (2009), Meteorit. & Planet. Sci., 44, 1947-1954.
8 Gault, D. E. and Wedekind, J. A. (1969), JGR , 74, 6780-6794.
太陽系内のD型小惑星は小惑星帯の外側にあるヒルダ群やトロヤ群に存在する他、火星衛星のフォボス、デイモスも反射スペクトルはD型小惑星に近いとされている*1。また、地球上に存在する隕石として、反射スペクトルからD型小惑星に近いとされているのがタギシュ・レイク隕石である。この隕石は炭素質コンドライトの中でも化学組成や酸素同位体比はCM、CIコンドライトと一致せず、既存の化学グループには属さない、特異かつ始原的で希少な隕石とされている*2。
いくつかのコンドライトもしくはその模擬物について、衝突破壊強度や衝突破片の再集積条件がこれまでに研究されている。例えば3つの普通コンドライト(OC)と1つの炭素質コンドライト(CV)の衝突破壊強度Q*はおよそ1400 J/kgであり、これは地球上の岩石の2倍近くである*3。また、普通コンドライトの母天体の模擬物を用いた実験から、普通コンドライトの母天体のカタストロフィック破壊後の衝突破片は、半径が3 kmより大きい天体であるとコンドリュールのサイズによらずに再集積することが推定されている*4。本研究ではタギシュ・レイク隕石の組成をもとにして作られた火星衛星フォボスのシミュラント(UTPS-TB)*5を標的とした衝突破壊実験を行い、D型小惑星の衝突破壊強度や衝突破片の再集積条件を調べることを目的とした。
実験
試料の密度は1.43±0.04 g/㎤であった。シミュラントの組成がタギシュ・レイク隕石と同じだと仮定したところ、空隙率は46 %に相当する。引張強度と圧縮強度はそれぞれ、直径20 mm、高さ6-21 mmの円柱について荷重速度0.001 mm/sで測定した。その結果それぞれ、0.222±0.087 MPa、1.11±0.31 MPaであった。
JAXA宇宙科学研究所の横型二段式ガス銃を用いて、1/8 インチのナイロン球弾丸を衝突速度4.1-5.3 km/sで標的に衝突させる衝突実験を行った。標的は試料を1辺約5 cmの立方体に切り出したものを用いた。また、破片速度を解析するために、高速度カメラを真横から2台、真上から1台設置し、撮影を行った。
結果
衝突後の試料の破片は、他の破片に対してひと際大きい最大破片、一回り小さいサイズの破片がいくらか、そして粉々になった破片の、大きく分けて3つのグループに分かれた。それぞれの実験における最大破片の質量をm1、標的のもとの質量をMtとし、それぞれの最大破片質量割合(m1/Mt)とエネルギー密度(系の単位質量あたりの弾丸の運動エネルギーで定義される)Qの間に、経験式m1/Mt = 103.05±1.44・Q-1.11±0.48が求められた。この式より最大破片質量割合が0.5となる衝突破壊強度Q*を求めると、Q*= 1000 J/kgとなった。これはOCやCV*1と同程度である。また、石膏*4, 5と比べると壊れやすく、ガラス*6と比べると壊れにくいこともわかった。
次に、衝突破片の再集積条件を調べるために、最大破片質量割合と破片速度の関係についての解析を行った。高速度カメラ画像を用いて標的の弾丸衝突面の角の速度を測定し、その後重心系の速度になるよう計算した。カタストロフィック破壊時、つまりm1/Mt=0.5で先行研究と比較すると、破片速度は石膏*2とほぼ同値で、普通コンドライトの模擬物*2よりおよそ4-5倍速いことがわかった。これより、カタストロフィック破壊時におけるフォボスシミュラント(UTPS-TB)で構成された天体の再集積のしやすさは、石膏(空隙率約50%)とほとんど同じであり、普通コンドライトの模擬物で構成された天体(空隙率約35%)よりも再集積しにくいと考えられる。
参考文献
1 Fraeman, A. A., et al. (2014), Icarus, 229, 196-205.
2 Hiroi, T. et al. (2001), Science, 293, 2234-2236.
3 Flynn, G. J. and Durda, D. D. (2004), Planet. Space Sci., 52, 1129-1140.
4 Yasui, M. and Arakawa, M. (2011), Icarus, 214, 754-765.
5 Miyamoto, H. et al. (2018), LPSC 49th, Abstract #1882.
6 Kawakami, S., et al. (1991), A & A, 241, 233-242.
7 Okamoto, C. and Arakawa, M. (2009), Meteorit. & Planet. Sci., 44, 1947-1954.
8 Gault, D. E. and Wedekind, J. A. (1969), JGR , 74, 6780-6794.