[PPS09-P04] 土星リング粒子を模擬した多孔質氷球の低速度衝突実験:反発係数に対する空隙率依存性と非弾性衝突のメカニズム
土星のリングは幅が数万kmであるのに対して,厚さが数100 mと非常に薄く,直径が数mmから数mまでの水氷からなる粒子で構成されていることが知られている.また,カッシーニ探査機により,リングが作る様々な構造やリング中の微小氷衛星の存在が明らかになり,リングや微小氷衛星の形成過程に関する理論計算も盛んに行われている.そのような構造の発生条件はリング粒子のランダム速度に制約され,ランダム速度はリング粒子の公転速度の差からのエネルギー変換と,粒子の非弾性衝突によるエネルギー散逸の釣り合いから決まることが分かっている.従って,リング中に存在する構造の形成過程において,リング粒子の非弾性衝突によるエネルギー散逸のメカニズムを明らかにする事は重要である.また,リング粒子同士の平均相対衝突速度は数cm/s以下であると言われており,非常に低速である.一方,薄い円環状のリングが維持されるには,反発係数が0.6以下であることが必要であると,数値計算によって言われている.これまでの先行研究の室内実験では,薄い氷の霜層のある氷球の場合はこの反発係数の条件を満たすことが分かっているが,リング粒子はカッシーニの観測から高空隙率の氷粒子の集合体であることが予測されており,この氷球ではこの観測とは整合的ではない.そこで,氷粒子集合体がリング中の構造や土星の薄い円環状のリングを維持できるかを検討する必要がある.
本研究では,多孔質氷球の非弾性衝突におけるエネルギー散逸のメカニズムを明らかにし,薄い円環状である土星リングを維持している氷粒子の内部構造を推定するため,多孔質氷球と花崗岩板,氷板,多孔質氷板の3種類の板との低速度衝突実験を行い,衝突速度と反発係数の関係に対する空隙率依存性を調べた .
実験は球を板に自由落下させることで反発係数を測定した。多孔質氷球(半径1.5cm,空隙率47%,53%,60%)は氷粒子(平均粒径20μm)を球形に押し固めて作成した.また,標的板は花崗岩板,氷板,多孔質氷球と同様に作成した多孔質氷板(半径1.5cm,高さ2cmの円盤形)を使用した.反発係数はAEセンサー,レーザー変位計,小型高速カメラを使用し,衝突の時間間隔を測定することで求めた。衝突速度範囲は0.78~265.8cm/sであった.
氷球の反発係数は球に傷ができ始める速度である限界速度より小さい衝突速度では準弾性領域、大きい衝突速度では非弾性領域となることが知られている。準弾性領域では衝突速度によらず反発係数は一定となるが、非弾性領域では衝突速度の増加に伴って反発係数は小さくなった。一方、多孔質氷球の反発係数は,衝突速度の増加とともに反発係数は下がり続け,準弾性領域は確認されなかった.衝突速度が大きい領域では空隙率が大きいほど反発係数は低くなったが,衝突速度が小さい領域では空隙率依存性は収束した.この関係は経験式e=e0・vi-bで表すことができ,bは空隙率が大きい程値が大きくなる傾向が確認された.
実験で得られた反発係数から衝突時のエネルギー散逸,凹みの幅から圧縮体積を計算すると,その関係は経験式ΔV=V0・Edisnで表すことができた.その結果,nは0.75~1.53となり,圧縮体積はエネルギー散逸に比例することが示唆された.従って,衝突時のエネルギー保存を仮定すると,Edis=Yd・ΔVという関係式を得ることができた.この関係式から,多孔質氷球の圧縮強度は空隙率47%では5.25~7.97 MPa,空隙率53%では3.46~5.19 MPa,空隙率60%では0.27~0.50 MPaという結果が得られた.
また,小型変形試験機を用いて多孔質氷球の圧縮変形試験を行い,形成された凹みから圧縮体積を,荷重から圧縮する時に必要なエネルギーを計算し、衝突実験と同様にEcomp=Yd・ΔVという関係式から多孔質氷の圧縮強度を計算した。その結果,多孔質氷球の圧縮強度は空隙率47%では2.72 MPa,空隙率53%では1.35 MPa,空隙率60%では0.45 MPaという結果になった.これを衝突実験から計算した多孔質氷球の圧縮強度と比較すると,空隙率60%の場合はほぼ一致したが,空隙率47, 53%の場合は衝突実験で得られた圧縮強度の方が2.1~5.3 MPa大きいことが分かった.従って,空隙率60%の多孔質氷球の反発係数低下のメカニズムは圧縮体積と圧縮強度によって説明できるが,空隙率47, 53%では圧縮以外の別のエネルギー散逸の影響が示唆された.
本研究の結果を土星リング粒子の衝突速度範囲まで外挿した結果,空隙率47%~60%の多孔質氷球は土星リング粒子の条件を満たすということがわかった。
本研究では,多孔質氷球の非弾性衝突におけるエネルギー散逸のメカニズムを明らかにし,薄い円環状である土星リングを維持している氷粒子の内部構造を推定するため,多孔質氷球と花崗岩板,氷板,多孔質氷板の3種類の板との低速度衝突実験を行い,衝突速度と反発係数の関係に対する空隙率依存性を調べた .
実験は球を板に自由落下させることで反発係数を測定した。多孔質氷球(半径1.5cm,空隙率47%,53%,60%)は氷粒子(平均粒径20μm)を球形に押し固めて作成した.また,標的板は花崗岩板,氷板,多孔質氷球と同様に作成した多孔質氷板(半径1.5cm,高さ2cmの円盤形)を使用した.反発係数はAEセンサー,レーザー変位計,小型高速カメラを使用し,衝突の時間間隔を測定することで求めた。衝突速度範囲は0.78~265.8cm/sであった.
氷球の反発係数は球に傷ができ始める速度である限界速度より小さい衝突速度では準弾性領域、大きい衝突速度では非弾性領域となることが知られている。準弾性領域では衝突速度によらず反発係数は一定となるが、非弾性領域では衝突速度の増加に伴って反発係数は小さくなった。一方、多孔質氷球の反発係数は,衝突速度の増加とともに反発係数は下がり続け,準弾性領域は確認されなかった.衝突速度が大きい領域では空隙率が大きいほど反発係数は低くなったが,衝突速度が小さい領域では空隙率依存性は収束した.この関係は経験式e=e0・vi-bで表すことができ,bは空隙率が大きい程値が大きくなる傾向が確認された.
実験で得られた反発係数から衝突時のエネルギー散逸,凹みの幅から圧縮体積を計算すると,その関係は経験式ΔV=V0・Edisnで表すことができた.その結果,nは0.75~1.53となり,圧縮体積はエネルギー散逸に比例することが示唆された.従って,衝突時のエネルギー保存を仮定すると,Edis=Yd・ΔVという関係式を得ることができた.この関係式から,多孔質氷球の圧縮強度は空隙率47%では5.25~7.97 MPa,空隙率53%では3.46~5.19 MPa,空隙率60%では0.27~0.50 MPaという結果が得られた.
また,小型変形試験機を用いて多孔質氷球の圧縮変形試験を行い,形成された凹みから圧縮体積を,荷重から圧縮する時に必要なエネルギーを計算し、衝突実験と同様にEcomp=Yd・ΔVという関係式から多孔質氷の圧縮強度を計算した。その結果,多孔質氷球の圧縮強度は空隙率47%では2.72 MPa,空隙率53%では1.35 MPa,空隙率60%では0.45 MPaという結果になった.これを衝突実験から計算した多孔質氷球の圧縮強度と比較すると,空隙率60%の場合はほぼ一致したが,空隙率47, 53%の場合は衝突実験で得られた圧縮強度の方が2.1~5.3 MPa大きいことが分かった.従って,空隙率60%の多孔質氷球の反発係数低下のメカニズムは圧縮体積と圧縮強度によって説明できるが,空隙率47, 53%では圧縮以外の別のエネルギー散逸の影響が示唆された.
本研究の結果を土星リング粒子の衝突速度範囲まで外挿した結果,空隙率47%~60%の多孔質氷球は土星リング粒子の条件を満たすということがわかった。