JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 惑星科学

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、嵩 由芙子(会津大学)

[PPS09-P11] 原始惑星系円盤の鉛直シア不安定性に対するダスト進化の影響

*福原 優弥1奥住 聡1 (1.東京工業大学地球惑星科学系)

キーワード:原始惑星系円盤、鉛直シア不安定性

原始惑星系円盤は惑星形成の現場である. 最近の高解像度円盤観測(e.g., Andrews et al. 2018) から, 惑星が中心星から離れた場所(10–100 au)で形成されている可能性が示唆されている(e.g., Zhang et al. 2018). このような遠方で, どのようにダストから微惑星や惑星が形成されるのかは大きな謎である.
この謎を明らかにするうえで必須となるのが, 遠方での円盤乱流に関する理解である. 円盤乱流は, ダストの衝突破壊や拡散を引き起こすことで微惑星形成を阻害することもあれば(e.g., Ormel & Cuzzi 2007), ダストの選択的な濃集を引き起こして微惑星形成を促進することもある(e.g., Pan et al. 2011). しかし, 中心星から離れた領域では, 乱流が主にどのような機構によって駆動されるのかは, よく理解されていない.
本研究では, 遠方での乱流の発生源として, 鉛直シア不安定性(vertical shear instability)と呼ばれる流体不安定性(Urpin & Brandenburg 1998)に注目する. 鉛直シア不安定性は公転速度の鉛直勾配が引き起こす不安定性であり, 熱緩和時間が公転周期に比べ十分短いときに発生する. 過去の研究(Pfeil & Klahr 2019)から, 鉛直シア不安定性は中心星から離れた場所で起こりやすいことが示されている. しかし, これまでの研究は, 円盤の熱緩和時間の計算においてミクロンサイズのダスト粒子を仮定しており, ダスト成長や微惑星形成が進行した状況には適用することができない.
本研究の目的は, 原始惑星系円盤の中心星から離れた領域において, ダストの進化が鉛直シア不安定性の発生領域に与える影響を明らかにすることである. そのために, ダストの最大サイズおよびダストガス面密度比の変化とともに, 鉛直シア不安定性の発生領域がどのように変化するのかを, 局所線形解析に基づくモデル(Malygin et al. 2017; Pfeil & Klahr 2019)を用いて調べた. 鉛直シア不安定由来の乱流の強さをあらかじめ仮定し, ダストの鉛直分布を乱流拡散と沈殿の釣り合いから決定した.
その結果, ダストの最大サイズが大きくなるにつれ, またダストの総質量が少なくなるにつれ, 鉛直シア不安定性の発生領域が狭くなることを示した. これは, 微小なダストの減少とともに円盤の熱緩和時間が長くなるからである. 具体的には, 円盤の総質量が0.01太陽質量のとき, ダストの最大サイズが1 mm以上, ダストガス面密度比が0.001以下になると, 鉛直シア不安定性の発生領域は赤道面から1スケールハイトの範囲内に限られる.
本研究の結果は, ダスト進化が進むにつれ, 鉛直シア不安定性による乱流が弱くなることを示唆する. 一般に乱流がダストの合体成長の阻害要因であることを踏まえると, ダストと乱流の共進化はダスト成長を促進する方向に作用する可能性がある. また, ダストの沈殿とともに鉛直シア不安定性が安定化し, さらにダスト沈殿が促進されるような正のフィードバックが発生する可能性がある.