JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS09] 惑星科学

コンビーナ:仲内 悠祐(宇宙航空研究開発機構)、嵩 由芙子(会津大学)

[PPS09-P20] タイタンの大気力学に対するヘイズ層の放射パラメータ依存性

*墨 幹1竹広 真一2大淵 済3野村 英子4藤井 友香5 (1.東京工業大学理学院地球惑星科学系、2.京都大学数理解析研究所、3.神戸大学・大学院理学研究科惑星学専攻/惑星科学研究センター、4.国立天文台科学研究部、5.東京工業大学地球生命研究所)

キーワード:タイタン、惑星大気大循環モデル、スーパーローテーション、ヘイズ層

タイタンの成層圏は惑星本体の東向きの自転よりも速く回っているスーパーローテーション状態にあることが観測により明らかにされている。タイタンに投入されたHuygens probeによるドップラー観測では高度約140kmから地上までの赤道付近におけるデータが得られた (Bird et al., 2005)。それによれば、地上付近の西向きの風を除き、全ての高度で東向きの風が観測された。高度80km付近の無風領域を除けば、高度が上がるにつれて風速が大きくなり、高度120km付近では風速100m/sにも及ぶ。また、Cassini Composite Infrared Spectrometer (Cassini/CIRS)で観測された大気の輝度温度から高度140kmより上空の全球規模で東向きの風が存在することが判明している (Achterberg et al., 2008)。

タイタンの大気の特徴として分厚いヘイズ層を持つことが観測から知られている。タイタンのヘイズは太陽放射の約90%を吸収し、大気上層の温度を増大させていることから大気への影響は大きいと考えられている。しかし、ヘイズが大気の状態にどう影響を与えているかはまだ明らかにされていない。このヘイズによる効果を理解することは、タイタンだけでなく地球型惑星の大気力学を理解する上で重要である。

本研究では、タイタンに存在するスーパーローテーションの発生メカニズムの解明及びそれに伴う大気大循環を理解することを目的として、惑星大気大循環モデル(GCM)による数値実験を行った。この数値実験では、地球流体電脳倶楽部の開発する、プリミティブ方程式系を実装した惑星大気大循環モデルDCPAMを用い、放射過程については大気ガスによる温室効果とヘイズによる太陽光の減衰をいくつかのパラメーターで表現したMcKay et al.(1999)の灰色大気モデルを導入した。放射場の構造の影響のみを純粋に議論するため、メタンの状態変化や季節変化は考慮していない。実験は、T10L55(経度32×緯度16×鉛直層55グリッド)の解像度で、無風の放射平衡温度を初期条件として定常状態に達するまで(10万地球日程度)行った。

実際のタイタンの温度構造を再現する放射パラメータで計算すると、高度200km付近で風速100m/s以上の極大を持つ東向きの風が得られた。これは観測から得られた温度風(Achterberg et al., 2008)の極大を持つ高度とおおよそ一致している。一方で、地上に近い領域では風がほとんど発達せず、観測事実との違いも見られた。また、放射モデルのパラメータを変化させたところ、東向きの風が極大となる高度はヘイズ層の高度に伴って変化し、ヘイズ層による太陽光の減光率を上げるほど東向きの風の強度は強くなった。ヘイズ層での太陽光吸収をなくした実験の場合、スーパーローテーションの顕著な構造は得られなかった。本講演では、これらのパラメータ依存性や観測結果との差異を議論する。