JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS10] 太陽系物質進化

コンビーナ:藤谷 渉(茨城大学 理学部)、松本 恵(東北大学大学院)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター )

[PPS10-06] 窒素・炭素の親鉄性 – コンドライト隕石と地球組成の差を読み解く鍵

*橋爪 光1大高 理2 (1.茨城大学理学部、2.大阪大学理学研究科)

キーワード:高揮発性元素、金属鉄コア、分配

地球は、コンドライト隕石と同じ組成を持つ始原惑星物質を主要な材料として形成したと考えられている。しかし、地球は分化が進んだ惑星なので、金属鉄コア、マントル、大気などの地球各層はコンドライト組成と必ずしも同じ元素組成を示さない。この組成の差が、分化の際の元素の挙動、引いては、初期地球で発生した様々な分化・集積に関する情報を与えるかもしれない。

本研究で注目するコンドライト隕石と地球組成の差はC/N比とN/36Ar比についてである。これらの元素比を地球全岩(BSE)組成とCI/CMあるいはエンスタタイトなどの始原コンドライト組成について比較する。BSE組成とは、地球マントル推定値と大気・海洋・地殻などの地球表層圏推定値を合わせて推定されたものである。BSEのC/N比はコンドライト組成の10-15倍、N/36Ar比は0.05-0.03倍と推定される。この差は、地球がコンドライト組成の材料物質から形成したことを認めるならば、BSE域外、つまり、下は金属鉄コア、上は宇宙空間とのこれら元素の移動に関する情報を与えるであろう。

本研究では、始原マントル組成の珪酸塩と金属鉄のメルトの間の窒素・炭素の分配値を実験的に求めた。約200Km厚のマグマオーシャンを仮定すると、窒素は炭素に比べて102-3倍高い親鉄性を示すことがわかった。このことは、希ガスが親鉄性を全く示さないことを合わせると、BSE組成の高いC/N比と低いN/36Arを両方よく説明する。コア形成直後において、それまでにコンドライト隕石から供給された窒素は、ほぼ全てコアに吸収されたことが示唆される。
地球は、コア完成後にも、BSE組成に大きな影響を及ぼすイベントをいくつか経験したと考えられる。それらは、月を形成したジャイアント・インパクトやレイト・ベニアである。高揮発性元素は、ジャイアント・インパクトにより相当割合が宇宙空間に吹き飛ばされたかもしれない。もしコア形成直後にBSEに残った高揮発性元素が完全に吹き飛ばされた場合、コア形成により作られた高いC/N比は失われてしまい、その後地球に降着したコンドライト組成のレイト・ベニアにより上書きされてしまうであろう。つまり、現在観測されるBSE組成の高いC/N比は、ジャイアント・インパクトにより吹き飛ばされた高揮発性元素の割合について一定の制約を与え得る。