JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS10] 太陽系物質進化

コンビーナ:藤谷 渉(茨城大学 理学部)、松本 恵(東北大学大学院)、小澤 信(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、日比谷 由紀(国立研究開発法人海洋研究開発機構 海底資源センター )

[PPS10-11] NWA 7865 reduced CV3 コンドライト隕石中のcompact Type A Ca-Al-rich inclusionの岩石組織学と酸素同位体組成

*鈴村 明政1川崎 教行2瀬戸 雄介3圦本 尚義2,4伊藤 正一1 (1.京都大学大学院、2.北海道大学大学院、3.神戸大学大学院、4.宇宙科学研究所)

キーワード:CAI、酸素同位体、岩石組織学

始原的隕石中に見られるCa-Al-rich inclusion(CAI)は、太陽系最古の物質である(Connelly et al. 2012)。CAI中の酸素同位体は鉱物間・鉱物内において非平衡に分布しており、この分布は、様々に異なる酸素同位体比を持つ環境中でおこった化学プロセスを反映したものであると考えられている(e.g., Yurimoto et al., 2008; Krot, 2019)。初期太陽系円盤において溶融を経験したとされる火成CAIは、compact Type A CAI (CTA)とType B CAIの2種類に分類される。Type B CAIについては、CAI結晶化の進行とともにメルトの酸素同位体組成が変化したことが、詳細な岩石鉱物学的観察と局所酸素同位体分析の同時研究により示されている(Kawasaki et al., 2018)。一方、CTAについては、meliliteの結晶成長に伴う酸素同位体組成の変化が報告されているが(Yurimoto et al., 1998; Park et al., 2012)、その結晶化過程は複雑であるため(e.g., Simon et al., 1999; Ito et al., 2004)、CTAメルトの結晶化に伴う酸素同位体変化の詳細な研究はまだ行われていない。本研究では、 NWA 7865 CVred 3.1コンドライト隕石中のCTA KU-N-02が結晶化する時のメルトの酸素同位体組成変化を明らかにした。KU-N-02 CTAの詳細な岩石組織学的観察から構成鉱物の結晶成長および結晶化順序を決定し、その上で詳細な局所酸素同位体分析を、北海道大学のSIMS(Cameca ims-1280HR)を用いて行った。
 KU-N-02 CTAのバルク組成は、典型的なCTAのものであり、主な構成鉱物はspinel、 melilite、fassaiteである。spinelはmeliliteとfassaiteに囲まれており、これらの鉱物はspinel-melilite-fassaiteの順にメルトから晶出したと考えられる。Spinelと meliliteの酸素同位体組成はそれぞれの結晶内部で不均質は見られず、 spinelは16Oに富み(Δ17O ~ −23‰)、meliliteは16Oに乏しい(Δ17O ~ −2‰)同位体組成を示す。Melilite単結晶は、成長に伴うノーマルゾーニング(Åk-poorからÅk-richになる成長)を示し、結晶内部に局所的に2〜20 µmのÅk組成に富むパッチ状の部分(Åk-patch)が点在する。Åk-patch内部にはspinelが存在し、spinel表面には小さなfassaite結晶が観察された。このfassaiteはmeliliteと同じ16Oに乏しい酸素同位体組成(Δ17O ~ −2‰)を示す。この結果は、meliliteは結晶成長中に、周囲のメルトを結晶中に包有し、このメルトインクルージョンが固化する過程でÅk-rich meliliteとfassaiteが晶出したとして説明できる。しかし、Åk-patch中のspinelは16Oに富むことから、メルト中に元々存在していたレリクト鉱物であると考えられる。このようなspinelとmelilite・fassaiteとの間の酸素同位体不均一は、16Oに富むこのCTAの前駆物質が溶融した時、溶融メルトと周囲の16Oに乏しい星雲ガスとの間で酸素同位体が交換した結果、メルトの酸素同位体組成が16Oに乏しくなったと考えられる(Yurimoto et al., 1998)。 また、melilite結晶間には、不規則でブロック状の形状をしたfassaiteが挟まれている。このfassaiteは、結晶成長とともにTi成分が乏しくなる化学ゾーニングを示す。このfassaiteは、酸素同位体組成も ゾーニングを持ち、結晶成長に伴い、16Oに乏しい組成 (Δ17O ~ −4‰)から16Oに富む組成 (Δ17O ~ −23‰)に徐々に変化する。この結果は、fassaiteの結晶化時にメルトの酸素同位体組成が連続的に変化したことを示唆する。これは、meliliteを晶出した後、16Oに乏しいメルトがfassaiteの結晶成長中に周囲の16Oに富む星雲ガスと酸素同位体交換をした為であると考えられる(Kawasaki et al., 2018)。以上の通り、CTAに見られる非平衡酸素同位体分布は、CTA形成中に周囲の星雲ガスの酸素同位体組成が変わったことを反映しているものである。このCTAメルトの酸素同位体組成の変化は、Kawasaki et al. (2018)が報告したType B1 CAIのメルトの場合と同様である。したがって、火成CAIは、前駆物質の化学組成に依らず、同じ場所で、同じ加熱溶融プロセスを経験し形成したと考えられる。