[PPS10-P04] カンラン石—有機化合物—水の相互作用 -炭素質隕石母天体への応用-
キーワード:炭素質隕石、カンラン石、有機化合物、水質変成、イオン間相互作用
【 序論 】
始原的な炭素質隕石は水や有機物などの揮発性物質に比較的富み,原始太陽系における有機物の化学進化過程を記録している.一方で,隕石母天体で水質変成時に形成される粘土鉱物は有機物を吸着し,触媒の役割を果たしたことが示唆されている (e.g. Pearson et al. 2007).しかし,水質変成以前の無水ケイ酸塩鉱物の作用についてはよくわかっていない.脱離エレクトロスプレーイオン化—高分解能質量分析による含窒素環状有機化合物のその場分析ではalkylimidazole (CnH2n-2N2)とalkylpyridine (CnH2n-5N) の隕石中での空間分布は化合物種や同族体間で異なる場合があった (Naraoka & Hashiguchi, 2018).その要因の1つとして,隕石母天体における水質変成の際の鉱物-有機物-水の相互作用が考えられるが,その証明はなされていない.そこで本研究では,コンドライト隕石を構成する主要な鉱物であるカンラン石と有機物-水の相互作用を実験的に明らかにすることを目的とした.
【 実験手法 】
San Carlos産のカンラン石を粉末化 (粒径:数 µm~数百 µm) し,ステンレス管(内径 1.7 mm × 長さ5.0 cm)に充填して液体クロマトグラフィー用カラムを作成した.そのカラムに(ⅰ)imidazole , (ⅱ)2-methylimidazole , (ⅲ)2-methylpyridine , (ⅳ)3-methylpyridine の混合溶液(以下,Nmix4)を注入し,移動相の溶離液流速を0.08 mL/minで溶出させ,質量分析計で検出した.これらの化合物はプロトン(H+)を付加し陽イオンとなる.各化合物の保持時間を比較することで,カンラン石-有機物-水の相互作用の大きさを評価した.各々の化合物の酸解離定数(pKa)は25℃において(ⅰ)6.95 , (ⅱ)7.85 , (ⅲ)5.92 , (ⅳ)5.66である (Perrin, 1965).また,カンラン石を充填していないカラムを用いて同様に分析した.条件を変えて以下の3つの実験を行った.
[ 実験1:中性条件 ] 移動相を超純水,カラム温度は40℃として,Nmix4を分析した.
[ 実験2:pHの影響 ] 移動相をCH3COONH4緩衝液 ( pH:8.95 ) , NH3水 ( pH:10.57 ) , HCOOH水溶液 ( pH:2.57 ) に変えてNmix4を分析した.いずれもカラム温度は40℃であった.
[ 実験3:温度の影響 ] 移動相を超純水で,カラム温度は30℃,20℃にしてNmix4を分析した.また,移動相をCH3COONH4緩衝液 ( pH:8.92 ) ,NH3水 ( pH:10.35 ) に変えて,それぞれカラム温度は20℃として,Nmix4を分析した.
【 結果と考察 】
[ 実験1 ] カンラン石粉末を充填していないカラムでは4つの化合物の保持時間は同じだったのに対して,カンラン石粉末存在下では,保持時間は (ⅲ)2-methylpyridine ~ (ⅳ)3-methylpyridine < (ⅰ)imidazole < (ⅱ)2-methylimidazole となった.これは各化合物のpKaと相関があり,陽イオンとして存在しやすいものほど強くカンラン石と相互作用することが示唆される.つまり,正の電荷を帯びた窒素環状化合物とカンラン石を構成する負の電荷を帯びたケイ酸の酸素部分とのイオン的相互作用が考えられる.
[ 実験2 ] 塩基性条件ではpHが大きいほど,すべての化合物の保持時間が短くなった.これは移動相のH+が少ないことで,陽イオンとして存在している化合物が少なく,イオン的結びつきが小さくなったためだと考えられる.また,酸性条件ではimidazole類の保持時間は短く,methylpyridineの保持時間は長くなった.この原因についてはまだ不明であり,今後検討を要する.
[ 実験3 ]カラム温度がより低温の場合,移動相が中性の条件では,40℃での保持時間に比べてすべての化合物の保持時間が増加した.また,40℃での保持時間が長い化合物ほど,その増加量が大きくなった.さらに,40℃の条件ですべての化合物の保持時間が短かった塩基性条件では,低温条件でも保持時間は大きく変わらなかった.これは,低温条件では,カンラン石側に分配された化合物が移動相側へ戻りにくいため,カンラン石とのイオン的結びつきが強い化合物ほど,さらに保持時間が増加したと考えられる.
以上の結果から,隕石母天体上で,カンラン石は有機物-水の相互作用に影響し,有機化合物の空間分布に影響を与え得ることが考えられる.
始原的な炭素質隕石は水や有機物などの揮発性物質に比較的富み,原始太陽系における有機物の化学進化過程を記録している.一方で,隕石母天体で水質変成時に形成される粘土鉱物は有機物を吸着し,触媒の役割を果たしたことが示唆されている (e.g. Pearson et al. 2007).しかし,水質変成以前の無水ケイ酸塩鉱物の作用についてはよくわかっていない.脱離エレクトロスプレーイオン化—高分解能質量分析による含窒素環状有機化合物のその場分析ではalkylimidazole (CnH2n-2N2)とalkylpyridine (CnH2n-5N) の隕石中での空間分布は化合物種や同族体間で異なる場合があった (Naraoka & Hashiguchi, 2018).その要因の1つとして,隕石母天体における水質変成の際の鉱物-有機物-水の相互作用が考えられるが,その証明はなされていない.そこで本研究では,コンドライト隕石を構成する主要な鉱物であるカンラン石と有機物-水の相互作用を実験的に明らかにすることを目的とした.
【 実験手法 】
San Carlos産のカンラン石を粉末化 (粒径:数 µm~数百 µm) し,ステンレス管(内径 1.7 mm × 長さ5.0 cm)に充填して液体クロマトグラフィー用カラムを作成した.そのカラムに(ⅰ)imidazole , (ⅱ)2-methylimidazole , (ⅲ)2-methylpyridine , (ⅳ)3-methylpyridine の混合溶液(以下,Nmix4)を注入し,移動相の溶離液流速を0.08 mL/minで溶出させ,質量分析計で検出した.これらの化合物はプロトン(H+)を付加し陽イオンとなる.各化合物の保持時間を比較することで,カンラン石-有機物-水の相互作用の大きさを評価した.各々の化合物の酸解離定数(pKa)は25℃において(ⅰ)6.95 , (ⅱ)7.85 , (ⅲ)5.92 , (ⅳ)5.66である (Perrin, 1965).また,カンラン石を充填していないカラムを用いて同様に分析した.条件を変えて以下の3つの実験を行った.
[ 実験1:中性条件 ] 移動相を超純水,カラム温度は40℃として,Nmix4を分析した.
[ 実験2:pHの影響 ] 移動相をCH3COONH4緩衝液 ( pH:8.95 ) , NH3水 ( pH:10.57 ) , HCOOH水溶液 ( pH:2.57 ) に変えてNmix4を分析した.いずれもカラム温度は40℃であった.
[ 実験3:温度の影響 ] 移動相を超純水で,カラム温度は30℃,20℃にしてNmix4を分析した.また,移動相をCH3COONH4緩衝液 ( pH:8.92 ) ,NH3水 ( pH:10.35 ) に変えて,それぞれカラム温度は20℃として,Nmix4を分析した.
【 結果と考察 】
[ 実験1 ] カンラン石粉末を充填していないカラムでは4つの化合物の保持時間は同じだったのに対して,カンラン石粉末存在下では,保持時間は (ⅲ)2-methylpyridine ~ (ⅳ)3-methylpyridine < (ⅰ)imidazole < (ⅱ)2-methylimidazole となった.これは各化合物のpKaと相関があり,陽イオンとして存在しやすいものほど強くカンラン石と相互作用することが示唆される.つまり,正の電荷を帯びた窒素環状化合物とカンラン石を構成する負の電荷を帯びたケイ酸の酸素部分とのイオン的相互作用が考えられる.
[ 実験2 ] 塩基性条件ではpHが大きいほど,すべての化合物の保持時間が短くなった.これは移動相のH+が少ないことで,陽イオンとして存在している化合物が少なく,イオン的結びつきが小さくなったためだと考えられる.また,酸性条件ではimidazole類の保持時間は短く,methylpyridineの保持時間は長くなった.この原因についてはまだ不明であり,今後検討を要する.
[ 実験3 ]カラム温度がより低温の場合,移動相が中性の条件では,40℃での保持時間に比べてすべての化合物の保持時間が増加した.また,40℃での保持時間が長い化合物ほど,その増加量が大きくなった.さらに,40℃の条件ですべての化合物の保持時間が短かった塩基性条件では,低温条件でも保持時間は大きく変わらなかった.これは,低温条件では,カンラン石側に分配された化合物が移動相側へ戻りにくいため,カンラン石とのイオン的結びつきが強い化合物ほど,さらに保持時間が増加したと考えられる.
以上の結果から,隕石母天体上で,カンラン石は有機物-水の相互作用に影響し,有機化合物の空間分布に影響を与え得ることが考えられる.