JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] Science of slow earthquakes: Toward unified understandings of whole earthquake process

コンビーナ:井出 哲(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、廣瀬 仁(神戸大学都市安全研究センター)、氏家 恒太郎(筑波大学生命環境系)、波多野 恭弘(大阪大学理学研究科)

[SCG58-P07] 南海トラフC0002掘削地点でのカッティングス試料を用いた摩擦特性プロファイルの作成

*藤岡 里帆1片山 郁夫1廣瀬 丈洋2北村 真奈美3 (1.広島大学、2.国立研究開発法人海洋研究開発機構 高知コア研究所、3.産業技術総合研究所)

キーワード:摩擦、南海トラフ、粘土鉱物、付加体

南海トラフでは繰り返し巨大地震が発生しており、歴史的に甚大な被害をもたらしてきた。南海トラフ巨大地震は約100-150年周期で繰り返し発生しており、前回の巨大地震発生からすでに70年ほどが経過しており、近い将来に起こると予想されている (例えば、 Ando et al. 1975)。そのため、南海トラフでの巨大地震発生メカニズムを理解することが喫緊の課題である。南海トラフの地震発生メカニズムを解明するために、2007年から2018年にかけて、南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)がIODPの一環として実施された。この掘削計画によって採取された試料を用いた摩擦実験の例として、Ikari and Saffer (2011)やTakahahsi et al.(2014)など複数の先行研究が存在する。しかし、掘削地点C0002では連続したカッティングス試料があるにもかかわらず、詳細な深さ‐摩擦特性のプロファイルは存在しない。深さ-摩擦特性のプロファイルを作成することで、その場の潜在的な脆弱性や、地震を引き起こす要因を検証できる可能性がある。そこで、本研究では南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)内で採取されたC0002N地点を中心としたカッティングス試料を用いて摩擦実験を行った。

摩擦実験は広島大学設置の高温二軸摩擦試験機を用い、現場の有効圧と同じ垂直応力をかけ、塩水(0.5 mol/l)を用いた含水条件下で行った。カッティングス試料をすりつぶし、粒形を106 μm以下にそろえ模擬ガウジを作成した。この試料を斑レイ岩ブロックで挟み、両側から垂直応力をかけ、上部よりせん断応力をかけた。すべり速度は3 μm/sで定常状態に達した後、0.3、3、33 μm/sの間で段階的に変化させた。この実験より、定常状態での摩擦係数および摩擦の速度依存性(a-b)を調べた。実験はすべて塩水で満ちた水槽内で行った。実験結果を、IODP第348次航海で報告されているカッティングス試料の粘土鉱物総含有量、スメクタイトの含有量と比較し、摩擦特性と粘土鉱物の関連性を調べた。

 掘削地点C0002Nにおける試料の摩擦係数は0.472≤μ≤0.575であり、深さと摩擦係数の相関は認められなかった。一方、摩擦係数はわずかではあるがスメクタイト含有量が増加するにつれ減少する傾向を示した。先行研究(Takahashi et al. 2014)と同じ傾向である。スメクタイトの含有量の増加とともに、摩擦係数が低下する原因はスメクタイトの結晶構造中にある層間水と表面に水を吸着しやすい性質のため、せん断強度が低下するためであると考えられる。今後の実験予定であるより深い深度で採取された試料では、スメクタイトの含有量が低下することが報告されており、摩擦係数が上昇することが予想される。
摩擦の速度依存性を示すパラメーター(a-b)は、は-0.009≤a-b≤0.020となった。多くの場合正であり速度強化を示すが、深さとの摩擦の速度依存性プロファイルでは、すべり速度33 μm/s、深さ約1100 m から1800 mにおいて摩擦の速度依存性が見られない中立な状態が認められた。先行研究のTakahashi et al. (2014)では全ての実験において速度強化が報告されているが、本研究でも同サイト掘削試料の同じ深さにおいては正を示したため、概ね整合的な結果となった。また、すべり速度が速いほど摩擦の速度依存性は小さくなる傾向が報告されているが、本研究でも同様の傾向が確認された。スロー地震が起こるにはa-bは中立な状態を示す必要がある(Ikari and Saffer, 2011)と報告されているため、今回見られたすべり速度はスロー地震発生のメカニズムに寄与している可能性がある。