JpGU-AGU Joint Meeting 2020

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[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG59] 地殻表層の変動・発達と地球年代学/熱年代学の応用

コンビーナ:長谷部 徳子(金沢大学環日本海域環境研究センター)、末岡 茂(日本原子力研究開発機構)、Frederic Herman(University of Lausanne)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)

[SCG59-P01] 熱年代学を用いた北上・阿武隈山地における熱史と削剥史の推定

*梶田 侑弥1末岡 茂2福田 将眞1長谷部 徳子3田村 明弘4森下 知晃4Kohn Barry5田上 高広1 (1.京都大学大学院理学研究科、2.日本原子力研究開発機構、3.金沢大学環日本海域環境研究センター、4.金沢大学理工学域自然システム学類、5.School of Earth Sciences, University of Melbourne)

キーワード:北上山地、阿武隈山地、熱年代学、フィッション・トラック

東北日本弧は海溝側から順に前弧、火山フロント、背弧、背弧海盆といった島弧に特徴的な構成単元が明瞭に見られるため、島弧のテクトニクスを検討するのに適した地域である。それゆえ、構造発達史について様々な研究がなされてきた(e.g. 天野・佐藤, 1989; 佐藤, 1992; Nakajima, 2013)。太田ほか(2010)によると東北日本弧の山地は島弧横断(東西)方向の圧縮応力によって隆起してきたとされているが、一方で島弧のテクトニクスを議論する上で重要な山地の定量的な隆起・削剥史に関する研究例は数が限られている。

山地の上下変動を定量的に推定する手法として、GPSによる測地観測、侵食小起伏面を用いた地形学的手法、熱年代学的手法などが知られている。なかでも、100万年スケールの山地の隆起・削剥史の定量的議論には熱年代学が有効である。熱年代学では、放射年代測定による年代値と、年代測定手法と鉱物の組み合わせに固有な閉鎖温度を利用することで、岩石の辿ってきた熱史を復元する。さらに、様々な仮定を置くことで山地の隆起・削剥史の検討が可能となる。1970年代以降、世界の大規模な造山帯で適用されてきたが(Hermam et al., 2013)、近年、東北日本弧の南北で島弧横断スケールでの熱年代学的研究が実施され、前弧、奥羽脊梁山地、背弧の構成単元間の隆起・削剥史の違いが議論され始めた(Sueoka et al., 2017, Fukuda et al., 2019, Fukuda et al., in review)。しかしこれらの先行研究では個々の構成単元の隆起・削剥史は詳細には解明されていない。そこで本研究では、前弧側に存在する北上山地・阿武隈山地に着目し、熱年代学を用いて詳細な熱史および削剥史の推定を試みた。

本研究では熱年代学的手法としてアパタイトフィッション・トラック(AFT)法、アパタイト(U-Th)/He(AHe)法を適用した。AFT年代は北上山地で139.4~78.6 Ma、阿武隈山地で61.0~40.5 Maが得られた。AHe年代は北上山地で51.2~36.1 Ma、阿武隈山地で75.9~60.1 Maが得られた。以下、本研究結果と先行研究のデータから、各山地の年代の傾向および削剥史を議論する。

北上山地では、AFT年代は東縁から東経141.6度付近まで徐々に若返り(140~80 Ma)、それより西側はおよそ80 Maで一定の年代値となっている。一方でAHe年代は東経141.45度付近より東側はおおよそ50~40 Maを示すが最も西側の地点ではおよそ90 Maという古い年代値となっており、AFT年代とAHe年代では傾向の違いが見られる。ただし、最も西側の地点では、AHe年代が閉鎖温度の高いAFT年代より古い値を示しており、熱水活動などの局所的な短時間加熱イベントを反映している可能性がある。

阿武隈山地では、AFT年代は畑川断層帯を境に年代値が変化し、畑川断層帯の東側の年代は西側の年代より概ね古い年代値が得られた。AHe年代ではAFT年代と同じく畑川断層帯以東で年代値はやや古くなる傾向が見られるが、誤差範囲を考慮すると有意とは言えない。また最も東側の地点では、比較的若いAFT年代が得られているが、AHe年代との逆転が起きており、北上山地同様に局所的な短時間加熱イベントを反映している可能性がある。

次に得られたAFT年代値から各地点の平均削剥速度を計算した。求められた平均削剥速度は、北上・阿武隈山地の全地点において0.10 mm/yr以下であり、両山地は107-8年スケールで安定な削剥環境にあったと考えられる。ただし、計算された削剥速度は107-8年間の平均値であり、単純に107-8年間にわたってこの削剥速度が継続していたとは限らない。より詳細な削剥史の理解のためには,より短いスケール(< 107 yr)における熱年代学的手法の適用が望まれる。

今後の課題としては、①追加分析による各手法における測定精度や確度の向上、②未分析地点での測定の実施、③熱史と削剥史の時間分解能を高める新しい熱年代学的手法(e.g. FT長による熱史逆解析、電子スピン共鳴法など)の適用、④北上山地・阿武隈山地における隆起モデルやテクトニクスモデルの検討、などが挙げられる。



謝辞:本報告は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「平成31年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。また、本研究は平成26-30 年度文部科学省新学術研究領域「異なる時空間スケールにおける日本列島の変形場の解明」(代表:鷺谷 威、課題 番号26109003)によって助成された。