JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 変動帯ダイナミクス

コンビーナ:深畑 幸俊(京都大学防災研究所)、Ray Y Chuang(國立台灣大學地理環境資源學系)、竹下 徹(北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)、岩森 光(東京大学・地震研究所)

[SCG63-P03] 房総半島下における正断層型地震の発生と応力蓄積モデル

*橋間 昭徳1佐藤 比呂志1佐藤 利典2 (1.東京大学地震研究所、2.千葉大学大学院理学研究院)

キーワード:房総半島、応力蓄積、クーロン応力、プレート沈み込み、フィリピン海プレート

房総半島は、房総沖三重会合点をなすユーラシア、太平洋、フィリピン海プレートの相互作用によって形成されてきた。房総半島下のフィリピン海スラブ内では正断層型の地震が多く発生する。2019年にも房総半島下30 kmの深さでMw 4.9の地震が発生し、関東地方の広域にわたり揺れが観測された。このような比較的浅いスラブ内の地震は、大きな被害を引き起こしうる。しかし、同じスラブ内地震でもアウターライズ地震や稍深発地震に比べると発生メカニズムの理解は進んでいない。著者らは以前の研究において、太平洋プレートとフィリピン海プレートの定常沈み込み運動による変動をモデル化した(Hashima et al., Tectonophysics, 2016)。本研究では、このモデルを用いてフィリピン海スラブ内の応力レートを計算し、プレート沈み込み運動による応力場の形成と、その結果として引き起こされる地震活動について議論する。

本研究で、フィリピン海と太平洋プレートの沈み込み運動は、プレート境界面に定常すべり運動を与えることによりモデル化した。また、伊豆小笠原弧の衝突はすべり速度欠損によって表現した。島弧衝突の範囲は、周囲の地質学・変動地形学による変動データを満たすように定め、得られた衝突範囲は主に伊豆半島の北西側となった。

この最適モデルによって応力レートを計算したところ、房総半島下では、東西・南北の両方向に伸張的なドーナツ型メカニズムの応力がユーラシア-フィリピン海プレート境界の上下ともに形成された。より広域的にみると、伊豆半島においては島弧衝突を反映して北西-南東方向の圧縮応力場、相模トラフより南のフィリピン海プレート内部では横ずれ的応力場、房総半島以北には伸張的な応力場が形成される。

得られた応力レートを観測された地震の節面に適用し、クーロン破壊関数(ΔCFF)を計算した。計算の結果、ΔCFFは房総半島下の正断層地震に対して概ね正の値を示した。このことは、モデルで示したプレート内部に形成される応力パターンは、その解放プロセスとしての地震活動と整合的であるということを表している。また、伊豆半島、フィリピン海プレートの海側、ユーラシア側の銚子岬などの周辺の地震活動域でもΔCFFは正であり、本研究の応力蓄積モデルを支持する結果となった。

計算した応力レートを、太平洋とフィリピン海プレートそれぞれの沈み込みと伊豆半島の衝突のそれぞれの効果に分けて検討したところ、房総半島下においては、伊豆半島の衝突の影響はごくわずかであった。太平洋プレートの沈み込みは東西方向の伸張応力を、フィリピン海プレートの沈み込みは南北方向の伸張応力を形成し、両者合わせてドーナツ型の水平伸張応力を作り出す。このように、房総半島下の特徴的な応力場は、両者の影響が相補的に働くことで形成されることが明らかになった。