JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG66] 海洋底地球科学

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

[SCG66-04] GNSS-Acoustic測位精度向上にむけた解析手法の改良−位相相関を用いた走時決定と地球潮汐の影響評価−

*本荘 千枝1木戸 元之2富田 史章3太田 雄策1市川 俊人4大橋 徹4川上 太一4 (1.東北大学理学研究科地震・噴火予知研究観測センター、2.東北大学災害科学国際研究所、3.国立研究開発法人 海洋研究開発機構、4.海洋電子株式会社)

キーワード:GNSS-Acoustic、位相相関、地球潮汐

GNSS-Acoustic(以下GNSS-A)測位は,海上プラットフォームのGNSS測位と海底局の音響測位を組み合わせた海域での測地手法である.半日程度にわたる1回のキャンペーン観測での測位精度は,概ね水平成分で数センチメートル,鉛直成分では10〜20センチメートルとされ,陸上のGNSS測位精度に比べると一桁程劣っている.本研究では,複数あるGNSS-A測位の誤差要因のうち,音響測距の基本データである音波の往復走時の決定精度を向上させるため,「位相相関」を用いた走時検出法を導入した.また,主に上下方向の測位精度を改善するため,地球潮汐が測位に及ぼす影響を評価し,これを補正する位置決め解析を行った.

音響測距での音波の往復走時は,船舶等の海上プラットフォームに装備したトランスデューサから送られる送信波と,海底局のミラートランスポンダーから返される受信波との相互相関を算出することで,数マイクロ秒の精度で決定している.送信波には正弦波の位相を擬似乱数であるM系列で正・逆に変調させた信号を用いており,理論送信波の自己相関はラグ0に明瞭なピークを持つ.しかし実際には,観測された受信波と理論送信波との相互相関関数は大きく広範なサイドローブを伴い,理論自己相関とはかけ離れた形状となる場合も多い.相互相関関数の乱れの原因としては,トランスデューサの周波数特性に依る実際の送信波形の歪み,海中を往復する間に音波が波長に依存し減衰することによる受信波形の歪み,海底局の耐圧ガラス球や船底などからの反射波の混入などが考えられる.同程度に大きい相関ピークが複数存在する場合,どのピークを走時として採用するかは半ば経験的に決められており,これが測位の系統誤差となっている可能性がある.今回,相互相関に代り,位相情報のみを利用する位相相関(または位相限定相関; Phase Only Correlation: POC)を用いたところ,相関関数のサイドローブが大きく低減することが分かった.POCは画像マッチングなどに広く用いられている技術で,通常の相互相関に比べ,短波長成分を重視したより精度の高いマッチングが可能とされる.我々が用いる測距信号においては,短波長成分が卓越するのは位相反転時である.乱れた受信信号の中から位相反転を検出し重点的にマッチングすることで,サイドローブの少ない相関関数が得られていると考えられる.さらに,位相相関を用いることで,通常の相関関数を用いた場合に見られた船舶やトランスデューサ,観測点水深に依存した相関関数形状のバリエーションが減少し,常に形状の似た相関関数が得られることも分かった.これは,キャンペーン間での採用ピークの同一性を確保できるということであり,常に同一の船舶や観測機器を用いることが難しい現状にあって,極めて大きな利点である.一方で,相関関数の形状が海底局への音波の入射角に強く依存するという傾向は,位相相関でも同様に認められた.そのため,実際の解析では入射角ごとに位相相関関数のテンプレートを作成しマッチングさせる方法を採った.

地球潮汐による地表変位の振幅は,水平方向で数センチメートル,上下方向では十〜二十数センチに達する.我々の観測では,半日〜一日程度のキャンペーン観測のうち,数時間を移動観測に,十数時間を中心定点観測に充てる場合が多い.我々が管轄する東北沖の基準点では,上下位置は移動観測データのみで決まる場合が多く,移動観測時間帯の地球潮汐による上下変位はそのまま海底測位のバイアスとなる.今回,地球潮汐モデルを用いて,この影響を考慮した測位解析を実データに適用したところ,従来結果とは上下位置に数〜十センチメートルの違いが生じ,有意な影響のあることが分かった.

POCの海中測距信号への適用については,海洋電子株式会社が特許申請中である.