JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG66] 海洋底地球科学

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

[SCG66-05] GNSS-A観測に影響を与える海洋場の時空間的性質

*横田 裕輔1石川 直史2渡邉 俊一2中村 優斗2 (1.東京大学生産技術研究所、2.海上保安庁海洋情報部)

キーワード:GNSS-A、海洋場、黒潮

GNSS-A (Global Navigation Satellite System –音響測距結合方式) 観測において,音響測距が海洋場の擾乱から受ける影響は最大の誤差要因である.近年,GNSS-A観測技術は大きく進展を遂げ,巨大地震の余効変動,プレート間固着状態,浅部側のスロースリップなど,時空間的に微細な振る舞いを観測対象に含むようになってきた.このような微細な振る舞いを捉えるためには,海洋場の擾乱の性質を理解し除去する必要がある.

GNSS-A観測に影響を与える擾乱の補正技術は,Fujita et al. (2006, EPS)において提案されており,海上局の移動のみを利用して海洋場の傾斜構造の影響を軽減する解析手法であった.Yokota et al. (2018, MGR)において,海底局ごとの影響を考慮し,傾斜構造影響を軽減する手法が考案され,海底地殻変動観測の精度の向上が確認されている.GNSS-Aで検出した海洋場の傾斜構造は,Yokota & Ishikawa (2019, SN Applied Sciences)などにおいて,概観としてグローバルな海洋場を反映していることが確認されている.

しかしながら,現実にはグローバル海洋モデルでは推定できないような日変化以下の時間変化や内部重力波による影響が想定される.本発表では,紀伊水道沖での海洋モデル(JCOPE2M)・XBT連続観測との比較を通じてGNSS-Aに影響を与えている微細な構造の空間スケールについて調査した結果を述べる.結果として,海洋モデルでは考慮しないようなXBT実観測でのみ見いだされるkmスケールの海洋傾斜構造がGNSS-A観測に影響を与えていることを確認した.また,その構造を概ね適切に抽出できることから,海洋学的に議論できることも示唆された.

また,その時間分解能の限界について調査した.海表面にできるだけ多くの音響発信地点を持つことが重要であるが,船で測線を移動するために,十分な海表面の点を確保するのに時間がかかる.いくつかのケースを調査した結果として,現在の海底地殻変動観測ネットワークの場合には,1500m水深の地点で時間分解能はおよそ1時間となることがわかった.この値は測線長(水深に依存)に依存するため,水深が深い地点ほど時間分解能が劣化する.この時間分解能でもGNSS-Aによって検出される海洋場の傾斜構造の時間変化を見ることができる.kmスケールの海洋傾斜構造の微細な時間変化は内部重力波などによっていると考えられる.海底地殻変動観測の精度向上ならびに微小な海洋構造の理解に向けて,今後はGNSS-Aデータを利用した微細構造の時空間変化の特徴をさらに調査していく必要がある.