JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG66] 海洋底地球科学

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)

[SCG66-16] 熱水分布を探しに行く前に予測できるか?

*熊谷 英憲1関根 秀太郎2 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構、2.公益財団法人 地震予知総合研究振興会)

キーワード:海底熱水、発震機構

活動的深海底熱水の発見から40年以上が経ち、その特異な性質は今なお多様な研究領域の関心を広く集めている。沖縄トラフでは、噴出する熱水流体が揮発性成分に富む傾向が強いことから、水中音響異常に着目すると活動的熱水が網羅的に(近く)把握できる。このような試みにより、この10年ほどで、認識されている高温の熱水活動の数はほぼ倍増し、南部沖縄トラフにおいてもトラフ中軸部の深まりである八重山海底地溝内の八重山海丘ほかで活動的な高温熱水が確認された[Miyazaki et al., 2017]。これにより、沖縄トラフの海底熱水活動には、島弧-海溝系の火山フロント近傍のマグマティズムに因るものに加えて、背弧海盆成長過程の一環としてのリフト活動に由来するものが中部、南部問わず共通して存在することが示された。一方、伊良部海丘から仲泊海陵の間の100km以上の区間には、熱水活動の兆候が認識されていない。当該海域には網羅的調査が不足している感は否めないものの、この不均質な分布の理由は解明されるべき課題と言えよう。
国土地理院により公表されているGNSS変位データから九州・福江に対する相対変位を求めると、中部沖縄トラフに対応する沖縄本島付近に比べ、南部沖縄トラフに対応する先島群島の変位が大きく、中でも、多良間島以西は伊良部島以東に比べ変位が大きい傾向にある。これは、沖縄トラフにおけるリフト活動度の異なるブロックの存在を示唆する。そこで、1997年からの気象庁一元化震源データから、深さ20km以浅の震源を抽出すると、1)トラフ底において深さ5km程度以浅のやや大きめ(気象庁マグニチュード(Mj)で3-4程度)の地震活動が目立ち、2)数十km径程度の塊をなす分布のように見える。これらのうち、メカニズムがよく求まったN=1148の地震には、3)トラフ部に限れば逆断層型の地震はなく、4)宮古島-久米島間(東経124.8-126.6度)で少なく、5)その東方(東経126.6-128.4度)では、横ずれ断層型と正断層型の寄与はほぼ等しいが、西方の東経123.0-124.8度では正断層型が卓越する。したがって、東経126度付近に熱水活動が乏しいことはリフト活動の活動度が低いことに因るとも考えられる。またこの傾向は、地殻変動データの傾向および反射法地震探査でみられた八重山海丘付近トラフ底下での貫入構造と整合的であり、南部沖縄トラフ底における熱水活動ポテンシャルが高いことをも示している。脆性破壊を許容する温度条件と高温熱源の存在は両立しがたいと考えられるので、震源分布の精査により熱水活動の期待しうるエリアを絞り込むことも可能であろう。