JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG67] 地殻流体と地殻変動

コンビーナ:北川 有一(産業技術総合研究所地質調査総合センター地震地下水研究グループ)、小泉 尚嗣(滋賀県立大学環境科学部)、梅田 浩司(弘前大学大学院理工学研究科)、角森 史昭(東京大学大学院理学系研究科地殻化学実験施設)

[SCG67-P06] 鹿児島市付近に湧出する温泉水・地下水中ラドン濃度と地質の関係

*川端 訓代1渡部 真衣2,3中野 亮典2北村 有迅4冨安 卓滋4 (1.鹿児島大学総合教育機構、2.鹿児島大学理学部、3.コニカミノルタプラネタリウム株式会社、4.鹿児島大学大学院理工学研究科)

キーワード:ラドン、地下水、温泉、地質、活断層、鹿児島

ラドン(222Rn)はウラン系列の放射性同位体であり,半減期3.82日でα線を放出して壊変する.岩石中で生成されたラドンは,鉱物表面や鉱物境界に近い場所に存在する場合,岩石の間隙や大気中に放出される.ラドンは不活性のガスとして存在し水に対する溶解度が高く岩石の間隙流体や地下水に容易に溶け込むことが知られており,水中ラドンは地下の岩石種のトレーサーや地下水の帯水層の情報を得るために用いられている.また,岩石から放出されるラドンは亀裂の増加や,岩石・水比の変化,間隙率変化をもたらす地殻歪変化によって濃度が変化するため,地震予知を目的としたモニタリングが行われてきた(例えばUlmov and Mavashav, 1971; Wakita et al., 1980; Igarashi et al., 1995; Kuo et al., 2006; Tsunomori and Tanala, 2014).大規模な活断層はほぼ同じ位置で何度も破壊を繰り返している.このため,活断層による破砕帯は間隙率が高く地殻内で水の通路となるほか,周囲の母岩に比べて著しく鉱物や岩石の比表面積が高くなることを利用して,近年では水中ラドン濃度を用いて活断層を含む断層帯と地下水の関係が議論されている(例えば,Malgrange and Gleeson, 2014, Tsunomori et al., 2017).

本研究では鹿児島市内の温泉・地下水中のラドン濃度を測定し,市内に分布する活断層・断層と水中ラドン濃度の関係について考察を行った.鹿児島市内の温泉水は現在の一般的な地温勾配に従って温度が高くなることから,マグマや火成岩の熱的な影響を受けていないことが明らかとなった.また酸素水素同位体分析結果から,断層近傍の温泉でマグマに関係した水の混入が認められた.水中ラドン濃度測定の結果,基盤岩である四万十累層群とその上位に堆積する火砕流堆積物の帯水層から得られる水中ラドン濃度に顕著な差が認められた.これは多孔質であるか否かという岩石の性状に起因している可能性が高く,多孔質の火砕流堆積物ではラドン濃度が高くなり,間隙が少ない四万十累層群では低くなるためと考えられる.温泉水中ラドン濃度分布から,活断層や基盤岩中に発達する断層付近においてラドン濃度が高い温泉が認められた.これら温泉は岩石中の比表面積や間隙が大きい断層を流路としている可能性が考えられる.特に鹿児島市下の基盤岩グラーベン構造を作る断層近傍の温泉は,マグマの影響を受けた水が断層を流路として上昇している可能性が考えられる.本発表では,上記のラドン濃度と地質の関係を用い,汚染が認められる深度不明井戸の水中ラドン濃度から汚染源深度を推定する試みの結果についても発表を行う.本発表の一部はKawabata et al., (2018)において発表されている.
Igarashi et al., Science, 269, 1995
Kawabata et al., Rep. Fac. Sci., Kagoshima Univ., 51, 2018
Kuo et al., Ground Water, 44, 2006
Malgrange and Gleeson, J. Geophys. Res., Solid Earth, 119, 2014
Tsunomori and Tanaka, Radiat. Meas, 60, 2014
Tsunomori et al., Radioact., 172, 2017
Wakita et al., Science, 207, 1980
Ulmov and Mavashav, Akad. Nauk Uzbek, 1971