[SCG68-01] 海底活断層による地形発達と湧水現象
★招待講演
キーワード:冷湧水、付加体、南海トラフ
海底湧水(冷湧水)はプレート沈み込み帯の海溝陸側斜面から数多く発見されており,その多くが断層崖に分布するため断層に沿った排水によるものと考えられている.湧出流体は地下の供給源における圧密・脱水現象の理解において重要な情報を与えてくれる.一方,湧水の分布は海底下の構造に規制されると考えられることから,その分布は堆積変形の現行地質の理解に寄与する.海底観察によって発見された冷湧水は必ずしも断層に沿って連続することはない.不連続となっている地点では,崖錐堆積物が厚いところに対応する.このことから,海底付近まで断層に沿った排水路が存在する場合でも,断層を被覆する堆積物によって流体の移動が阻まれると考えられる.断層上盤においてはシロウリガイなどの湧水に依存する二枚貝の分布から湧出流体の拡散が推定されることがある.また,被覆堆積層の薄い場所では線状の分布を示すことがあり,断層上盤に発達した割れ目に沿った湧水を示唆する.湧水の発達は排水路の発達とともに表層での浸食・無堆積が重要な条件と言える.海底は堆積作用が卓越するので,侵食あるいは無堆積の場所は,海底谷を含む急斜面域に限られる.海底面は斜面崩壊と堆積作用で常に平滑化されているので,急斜面の存在は地すべり・断層運動・褶曲運動による地殻変動や混濁流による侵食作用が行われていることを示す.活断層に沿って冷湧水が多く分布するのは,断層自体が流路であるとともに,断層の繰り返し変位によって堆積物の被覆から逃れていることが原因と考えられる.海底湧水の分布は現行地質現象を理解する上で重要な情報の1つと言える.