[SCG71-06] 深部マグマ供給系の解明に向けた超高圧ガス圧装置
★招待講演
キーワード:実験岩石学、内熱式ガス圧装置、高温高圧岩石融解実験、マグマ溜まり、下部地殻
1.はじめに
地殻深部のマグマ供給系の解明にはさまざまな困難を伴う.その大きな理由の一つとして,地球物理学的観測にせよ岩石学的分析にせよ,浅部構造や浅部プロセスの影響が大きいため,それを適切に取り除かない限り,深部構造や深部プロセスを推定することが困難であることが挙げられよう.このため,様々な手法を適用し,組み合わせることで,理解を深めていく必要がある.今回述べる高温高圧実験もそういった手法の一つである.
高温高圧実験は,地下の高温高圧のマグマや岩石の状態を実験室で再現し,そこでどのようなプロセスが生じているかを調べるものである.岩石を融解させてマグマを生成し,そこで生じる反応などを調べる高温高圧岩石融解実験のほか,高温高圧岩石変形実験や,高温高圧下での各種物性測定実験などがある.我々は主に高温高圧岩石融解実験によって,地下のマグマプロセスの解明に向けた研究を行っている.最近,下部地殻条件まで再現可能な超高圧ガス圧装置を東工大から産総研地質調査総合センター (地調) へ移設し (東宮, 2017),その立ち上げや必要箇所の更新等を2019年度末までに完了したので,その紹介をしたい.
2.超高圧ガス圧装置(最高850 MPa)
一般に実験で高圧を発生させる方法として,およそ500 MPa(=5000 bar; 地殻の深さ20 kmくらいに相当)程度まではガス圧装置がよく用いられる.ガス圧装置は,圧力の精度と等方性に優れる特徴がある.また,0.8〜3 GPa程度(マントル最上部くらい)はピストンシリンダー型装置,それ以上の高圧ではマルチアンビル型装置やダイヤモンドアンビルセルの領域である.ここで問題となるのは,中部〜下部地殻(まさに深部マグマ供給系の条件)に相当する500〜800 MPa程度の圧力領域である.ガス圧装置にとっては高圧過ぎ,特に日本では高圧ガス保安法による規制が非常に厳しいため,装置の作成がかなり困難である.一方,ピストンシリンダー型装置にとっては低圧過ぎて,圧力精度の良い実験がしにくい.このため,この圧力領域の高温高圧実験は限られていた.
今回産総研地調に設置した超高圧ガス圧装置は,上記の問題に答えるものである.最高圧力850MPa(地殻の深さ30 km程度)のSMC-8600と同481MPa(地殻の深さ20 km程度)のSMC-5000から成り,いずれも高橋栄一氏らが東工大在籍中に開発・導入したものである (高橋・他, 1996; 鈴木・他, 2004).試料加熱用ヒーターが圧力容器内の断熱層に収まっている「内熱式ガス圧装置」という形式であるため,最高1500℃という高温まで実験可能である.さらに,実験終了時に試料を落下・急冷できる機構を持ち,高温高圧で融解させた試料をガラス凍結させて回収し,分析することができる.落下・急冷可能な最大試料サイズは,直径12mm×長さ25mm程度である.
3.産総研地調における高温高圧岩石融解実験
本装置は現在順調に稼働しており,阿蘇火山 (Ushioda et al., 2020) や十和田火山 (中谷・他, 2020) のマグマ溜まりの温度圧力条件の推定などが行われている.また,産総研地調には上記装置のほか,最高圧力196 MPaながら,減圧速度制御ユニットを備え,より簡便に操作できるガス圧装置などもあり,東北大学 (Matsumoto et al., 2020) や静岡大学 (Oida et al., 2020),ニュージーランドのマッセー大学 (Coulthard et al., in prep) などと共同研究が進行中である.
深部マグマ供給系の解明に向け,今回設置した超高圧ガス圧装置を始めとした各装置を活用した共同研究を広く呼びかけたい.
参考文献
Matsumoto, K. et al. (2020) 本学会.
中谷貴之・他 (2020) 本学会.
Oida, R. et al. (2020) 本学会.
鈴木敏弘・他 (2004) 高圧力の科学と技術, vol.14(3), p.225-229.
高橋栄一・他 (1996) 地球惑星科学関連学会1996年合同大会予稿集, C22-P27 (p.186).
東宮昭彦 (2017) IEVGニュースレター, vol.4(3), p.10-11.
Ushioda, M. et al. (2020) J. Geophys. Res., in press.
地殻深部のマグマ供給系の解明にはさまざまな困難を伴う.その大きな理由の一つとして,地球物理学的観測にせよ岩石学的分析にせよ,浅部構造や浅部プロセスの影響が大きいため,それを適切に取り除かない限り,深部構造や深部プロセスを推定することが困難であることが挙げられよう.このため,様々な手法を適用し,組み合わせることで,理解を深めていく必要がある.今回述べる高温高圧実験もそういった手法の一つである.
高温高圧実験は,地下の高温高圧のマグマや岩石の状態を実験室で再現し,そこでどのようなプロセスが生じているかを調べるものである.岩石を融解させてマグマを生成し,そこで生じる反応などを調べる高温高圧岩石融解実験のほか,高温高圧岩石変形実験や,高温高圧下での各種物性測定実験などがある.我々は主に高温高圧岩石融解実験によって,地下のマグマプロセスの解明に向けた研究を行っている.最近,下部地殻条件まで再現可能な超高圧ガス圧装置を東工大から産総研地質調査総合センター (地調) へ移設し (東宮, 2017),その立ち上げや必要箇所の更新等を2019年度末までに完了したので,その紹介をしたい.
2.超高圧ガス圧装置(最高850 MPa)
一般に実験で高圧を発生させる方法として,およそ500 MPa(=5000 bar; 地殻の深さ20 kmくらいに相当)程度まではガス圧装置がよく用いられる.ガス圧装置は,圧力の精度と等方性に優れる特徴がある.また,0.8〜3 GPa程度(マントル最上部くらい)はピストンシリンダー型装置,それ以上の高圧ではマルチアンビル型装置やダイヤモンドアンビルセルの領域である.ここで問題となるのは,中部〜下部地殻(まさに深部マグマ供給系の条件)に相当する500〜800 MPa程度の圧力領域である.ガス圧装置にとっては高圧過ぎ,特に日本では高圧ガス保安法による規制が非常に厳しいため,装置の作成がかなり困難である.一方,ピストンシリンダー型装置にとっては低圧過ぎて,圧力精度の良い実験がしにくい.このため,この圧力領域の高温高圧実験は限られていた.
今回産総研地調に設置した超高圧ガス圧装置は,上記の問題に答えるものである.最高圧力850MPa(地殻の深さ30 km程度)のSMC-8600と同481MPa(地殻の深さ20 km程度)のSMC-5000から成り,いずれも高橋栄一氏らが東工大在籍中に開発・導入したものである (高橋・他, 1996; 鈴木・他, 2004).試料加熱用ヒーターが圧力容器内の断熱層に収まっている「内熱式ガス圧装置」という形式であるため,最高1500℃という高温まで実験可能である.さらに,実験終了時に試料を落下・急冷できる機構を持ち,高温高圧で融解させた試料をガラス凍結させて回収し,分析することができる.落下・急冷可能な最大試料サイズは,直径12mm×長さ25mm程度である.
3.産総研地調における高温高圧岩石融解実験
本装置は現在順調に稼働しており,阿蘇火山 (Ushioda et al., 2020) や十和田火山 (中谷・他, 2020) のマグマ溜まりの温度圧力条件の推定などが行われている.また,産総研地調には上記装置のほか,最高圧力196 MPaながら,減圧速度制御ユニットを備え,より簡便に操作できるガス圧装置などもあり,東北大学 (Matsumoto et al., 2020) や静岡大学 (Oida et al., 2020),ニュージーランドのマッセー大学 (Coulthard et al., in prep) などと共同研究が進行中である.
深部マグマ供給系の解明に向け,今回設置した超高圧ガス圧装置を始めとした各装置を活用した共同研究を広く呼びかけたい.
参考文献
Matsumoto, K. et al. (2020) 本学会.
中谷貴之・他 (2020) 本学会.
Oida, R. et al. (2020) 本学会.
鈴木敏弘・他 (2004) 高圧力の科学と技術, vol.14(3), p.225-229.
高橋栄一・他 (1996) 地球惑星科学関連学会1996年合同大会予稿集, C22-P27 (p.186).
東宮昭彦 (2017) IEVGニュースレター, vol.4(3), p.10-11.
Ushioda, M. et al. (2020) J. Geophys. Res., in press.