JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM18] Paleomagnetism and rock magnetism applied to solving geological and geophysical problems

コンビーナ:Martin Chadima(Institute of Geology of the Czech Academy of Sciences)、Balazs Bradak(神戸大学)、Daniel Pastor-Galan(Center for North East Asian Studies, Tohoku University)、Myriam Annie Claire Kars(Center for Advanced Marine Core Research)

[SEM18-08] 犬山地域の三畳紀赤色層状チャート中の生物源磁鉄鉱候補の強磁性共鳴分析

*臼井 洋一1藤崎 渉1 (1.海洋研究開発機構)

ジュラ紀以前の海洋の環境を知る上で、付加体中の深海性の堆積岩の情報は重要である。美濃―丹波帯のジュラ紀付加体中には、三畳紀からジュラ紀の年代を持つ深海層状チャートの岩体が含まれている。深海層状チャートは一般に以下の3つの特徴を持っている。(1)チャートは放散虫といった珪質生物骨格に由来するシリカを95%程度含んでいる、(2)頁岩と互層する、(3)チャート、頁岩共にヘマタイトに由来する赤色を呈することがある。これまでの岩石磁気研究により、犬山地域の層状チャートから生物源磁鉄鉱らしきシグナルが報告され、古環境指標となりうることが提案されている。しかし、古地磁気研究からは磁鉄鉱に担われる磁化は白亜紀以降であることが示されており、磁鉄鉱は生物源ではなく変質・変成時に二次的な磁鉄鉱が生成したと解釈されている。そこで我々は、この生物源磁鉄鉱候補を特徴づけるために、三畳紀中期の層状チャートに対して強磁性共鳴分析を行った。

強磁性共鳴スペクトルをXバンド(~9.89 GHz)で測定し、数値計算で得た生物源磁鉄鉱のスペクトルと比較を行った。チャートは主に200 mT付近の比較的鋭い吸収と、300-500 mTにかけての幅広い吸収を示した。非生物由来の磁鉄鉱に期待される350 mT付近の吸収は、酸化的な環境下で堆積した海洋堆積物に比べ小さかった。一方で、頁岩のスペクトルには200 mT付近の吸収が見られなかった。岩石磁気測定から、頁岩は磁鉄鉱をほぼ含まない。これらから、チャートにのみ見られる200 mT付近の吸収が生物源磁鉄鉱候補に由来すると考えられる。数値計算の結果、チャートのスペクトルは生物源磁鉄鉱で再現でき、磁鉄鉱の[100]軸がマグネトソーム鎖に平行であり、実効的な一軸異方性が結晶磁気異方性の8-9倍であると推定された。このようなマグネトソームは、培養されたものではDesulfovibrio magneticus sp.より報告されており、この種は弾丸状の磁鉄鉱を生成する。堆積物の観察からは、弾丸状の磁鉄鉱はsuboxicな環境を示すと考えられ、これは地球化学的指標により推定される三畳紀中期層状チャートの堆積時の酸化還元環境(oxicからsuboxic)と矛盾しない。これらの結果は、犬山地域の三畳紀中期のチャートが生物源磁鉄鉱を含んでいることを支持するとともに、生物源磁鉄鉱が層状チャートの酸化還元環境の指標となりうることを示唆する。一方、非生物源由来の磁鉄鉱のシグナルが極めて小さいことと、古地磁気学的な年代推定との不一致は未解決であり、さらなる研究が必要である。