JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM21] 電気伝導度・地殻活動電磁気学

コンビーナ:松野 哲男(神戸大学海洋底探査センター)、畑 真紀(東京大学地震研究所)

[SEM21-07] 広帯域MT法探査から推定される雌阿寒岳の3次元比抵抗構造とマグマ供給系

*井上 智裕1橋本 武志1田中 良1 (1.北海道大学理学院)

キーワード:マグネトテルリク法、雌阿寒岳、比抵抗

北海道東部の阿寒カルデラ内の活火山であり,近年その北東麓で顕著な地盤膨張が観測されている雌阿寒岳において,2018年と2019年に広帯域MT法探査を行った.本研究では,その3Dインバージョンモデルに基づき雌阿寒岳のマグマ供給系を推定する.

雌阿寒岳では,有史以降小規模な水蒸気噴火が繰り返し発生してきた,噴火に前後して深部低周波地震が増加した事例があることから,水蒸気噴火に先行して地下深部から流体が供給されていた可能性が想像される.近年では,2016年から2017年にかけて雌阿寒岳北東麓で顕著な地盤膨張が検出された.この地盤膨張の主要な部分は,雌阿寒岳北東麓の深さ約○kmに位置する長さ約7 km×幅約2 kmのシル状クラックの開口で説明されている(北大, 2019).雌阿寒岳のマグマ供給系について具体的な描像があれば,山麓の地盤変動との関係について考察が可能だと考えられる.しかし,先行研究の比抵抗構造探査(NEDO, 1992; Takahashi et al., 2018)では,雌阿寒岳の深部やこの膨張源周辺の構造は明らかにされていない.

そこで,本研究では,MTU-5/5A (Phoenix Geophysics社製)を用いて雌阿寒岳山麓で26地点の電場2成分および磁場最大3成分のデータを取得した.得られたデータを用いて,ModEM(Egbert and Kelbert, 2012; Kelbert et al., 2014)による3Dインバージョン解析を行った.初期モデルとして,地形の起伏を考慮した48×48×85個のブロックにメッシュを切り(水平250〜128,000m,鉛直方向25〜256,000 m) ,大地には100 Ωm一様の比抵抗値を,大気と海はそれぞれ108 Ωmと0.3 Ωmを与え,264回の反復計算を行った.

3次元インバージョン解析の結果,雌阿寒岳直下には,0.5 km BSLから深部に伸びる低比抵抗体C1(約1−10 Ωm),雌阿寒岳の北に位置するフップシ岳周辺にはこれとは別の低比抵抗体C2(約0.1−10 Ωm)が見られた.一方,雌阿寒岳北東麓の圧力源が想定される領域には明瞭な低比抵抗異常は現れなかった.これらの低比抵抗体(C1・C2)それぞれについて,その下限深さを変化させていく感度テストをフォワード計算で行なった結果,C1は約6 km BSL,C2は約5 km BSLまで感度があると判断した.また,明瞭な比抵抗異常としては現れなかったシル状圧力源(1.5 km BSL)に,マグマもしくは熱水溜まりを想定した低比抵抗体を置き,その比抵抗値や厚さを様々に変化させたフォワード計算によって,応答関数にどの程度影響が現れるかを検討した.その結果,圧力源の媒質が10 Ωm以上のバルク比抵抗値である場合や,200 mよりも薄いシル状マグマ(または熱水)であれば,応答関数に有意な影響が現れないことが確認できた.

本研究で得られた低比抵抗体C1は,雌阿寒岳浅部の震源分布の下限に沿うように分布していることから,高温の火道の一部であると考えた.深部低周波地震の震源域(約30 km深)を雌阿寒岳の深部マグマだまりと考えると,C1はこのマグマだまりの浅部延長にあたる.C1の直上は雌阿寒岳の火口域となっている一方,やや深部で側方に分岐したのが2016年のシル状圧力源を形成した貫入イベントであると考えた.
本研究の次のステップとして,2010年に阿寒湖温泉で行われたAMT+MT探査のデータ(シル状膨張源北側)も加えて再解析する予定である.