JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-EM 固体地球電磁気学

[S-EM22] 地磁気・古地磁気・岩石磁気

コンビーナ:佐藤 雅彦(東京大学地球惑星科学専攻学専攻)、加藤 千恵(九州大学比較社会文化研究院)

[SEM22-08] 堆積物形成初期に磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticumMS-1が獲得する残留磁化の系統的検討

*政岡 浩平1諸野 祐樹2富岡 尚敬2浦本 豪一郎1山本 裕二1 (1.高知大学、2.海洋研究開発機構高知コア研究所)

海底堆積物には自然残留磁化(NRM)として,過去の地球磁場の方位・強度の変動がほぼ連続的に記録されている.このNRMの20-30%が磁性細菌起源のマグネタイト(生物源マグネタイト)によって担われているという指摘もあり(e.g. Yamazaki, 2012),その量的重要性が指摘されている.磁性細菌を用いた例として,Paterson et al. (2013)は,培養した磁性細菌を含む菌液を印加磁場中で薄膜状に乾燥させることで試料を作製し,獲得したNRM強度が外部磁場強度に比例して直線的に増加することを報告している.また,Mao et al. (2014)は天然の多種の磁性細菌を含む湖底堆積物を実験室環境で再堆積させる実験を行い,試料が獲得するNRM強度が外部磁場強度に比例して直線的に増加することを報告している.しかし,単一種の磁性細菌に着目し,ある一定の厚みを伴う条件下で外部磁場の下に細胞群の配列が固定するという形で堆積物形成の初期の過程を模擬し,この過程で獲得する「NRM」の性質を検討している研究はない.

 本研究では,分譲を受けた磁性細菌Magnetospirillum magnetotacticum MS-1(以下MS-1)を様々な条件で大量培養し,それらの細胞群が堆積物形成初期の圧密・脱水過程を経て,当時の地球磁場を反映したNRMを獲得する過程を模擬した実験を行い,磁気測定用試料を作製した.具体的には,分譲を受けたMS-1を様々な条件で大量培養した後,遠心分離で濃縮し,蛍光顕微鏡の視野下で細胞密度を計数することで,細胞数を調節可能とした.さらに透過型電子顕微鏡(TEM)による観察で,マグネタイト形成個体の割合と細胞内のマグネタイト平均粒子数も算出することで,試料内のマグネタイト総粒子数も推定可能とした.ヘルムホルツコイルで発生させた磁場下で,このように準備したMS-1の細胞群を寒天とともに固結させることで,磁気測定用試料を作製した.この際の作製条件は,印加磁場方位を共通として偏角0°・伏角0°とし,A:磁場強度一定(50 µT)・細胞数一定(~3×109cells),B:磁場強度一定(50 µT)・細胞数変化(1.0-4.5×109cells),C:磁場強度変化(0-90 µT)・細胞数一定(~3×109cells),D:外部磁場強度変化(0-90 µT)・細胞数ゼロ(寒天のみ)という4つを設定した.実験条件A, B, Cで作製した試料の残留磁化から,実験条件Dで作製した試料の残留磁化のベクトル成分を引くことで,獲得する「正味」の残留磁化について検討した.さらに,NRMの分析を終えた試料に対して,NRM獲得時と同一の方位に直流磁場強度50 µTでARMを,直流磁場強度1 Tで等温残留磁化(IRM)を獲得させた.ARMおよびIRMの着磁前には100 mTまでの段階交流消磁を行なった.

 全ての作製試料のNRM方位は印加磁場方位と一致した.NRM強度とTEM観察から推定される試料内マグネタイト総粒子数との間には概ね正の相関があった.NRM強度は試料内に含有される細胞数の増加に伴って直線的に増加し,その傾きはマグネタイト総粒子数に応じて20倍程度の差が見られた.さらに,NRM強度は試料作製時の外部磁場強度の増加に伴ってランジュバン関数的に増加した.同じ交流消磁段階のNRM強度・ARM強度・IRM強度を比較してNRM/ARM比およびNRM/IRM比を求めると,外部磁場強度を一定とした実験条件A・Bで作製した試料群はそれぞれNRM/ARM比が5.9程度,NRM/IRM比が0.9程度でよく一致した.試料に含有されるマグネタイトの粒子数の変化はARMおよびIRMで良く規格化できていることがわかる.一方,これらの比は,試料作製時の外部磁場強度の増加に対してランジュバン関数的に増加した.MS-1の細胞群のみから成る系でNRM/ARM比およびNRM/IRM比から古地磁気強度相対値を求めた場合,強い磁場範囲の地磁気強度を弱く見積もる可能性が示唆される.しかし,本研究で求められたNRM/ARM比およびNRM/IRM比は実際の海底堆積物から推定される値よりも1桁以上大きい.実際の海底堆積物は多様な磁性粒子を含有し,さらに生物擾乱や続成作用といった複雑な堆積過程を経ることでこれらの比が低下していると考えられるため,今後さらに検討を進めていく必要がある.