JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC49] 固体地球化学・惑星化学

コンビーナ:下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

[SGC49-06] 神津島流紋岩及び玄武岩質捕獲岩の地球化学的研究

*田村 達也1横山 哲也1石川 晃1 (1.東京工業大学理学院地球惑星科学系)

キーワード:神津島

神津島は伊豆小笠原弧に属する第四紀火山島である。海溝から見て火山フロントより背弧側に位置し、そのスラブ面深度は約200 kmである。神津島は南北約6.5 km、東西約4.0 kmの瓢箪型の島であり、いくつもの溶岩円頂丘が火砕堆積物によって陸つなぎになっている。神津島、および周辺の新島、式根島は大部分が流紋岩で構成されており、これは伊豆諸島における他の火山(例えば伊豆大島、三宅島、八丈島)の岩石がほとんど玄武岩質~安山岩質であることと対照的である。神津島の流紋岩は含まれる鉱物によって、紫蘇輝石流紋岩、カミングトン閃石流紋岩、黒雲母流紋岩の三種類あり、黒雲母流紋岩は噴出時期によって第一期から第三期に区分される。島内では流紋岩のみ噴出する中で、例外的に神津島の面房地域の流紋岩は、玄武岩質捕獲岩等の異質岩石片を有することがあり、新島に少量産出する高アルミナ玄武岩との関連性を含め、その成因が注目されてきた。

本研究の目的は、神津島に産する玄武岩質捕獲岩および流紋岩の地球化学的分析に基づき、これら岩石の成因を明らかにすることである。この目的のため、神津島で採集された玄武岩質捕獲岩4個、及び流紋岩24個を対象に、主要元素および微量元素濃度の測定を行った。主成分元素の分析は、ガラスビードを使った蛍光X線分析(Rigaku RIX2100)により行った。一方、玄武岩質捕獲岩4個、流紋岩14個を酸分解し、ICP-MS(Thermo X series Ⅱ)を用いて微量元素濃度の測定を行った。

玄武岩質捕獲岩のSiO2濃度は51-54%、流紋岩は73-77%であった。アルカリ元素とSiO2濃度から、分析した玄武岩質捕獲岩は高アルミナ玄武岩に分類される。主要元素のうちMgO, tFe2O2, Al2O3, CaOはSiO2濃度の上昇に伴い上昇し、K2Oは減少する傾向が見られた。N-MORBで規格化した微量元素パターンをみると、玄武岩質捕獲岩は液相濃集元素に富み、HFSEに枯渇するという島弧玄武岩の特徴を持つ。流紋岩は玄武岩質捕獲岩と似た微量元素パターンを持つが、玄武岩質捕獲岩とは対照的に、Sr, Euにおいて負の異常を持つ。また、流紋岩の微量元素濃度は、Srなど一部の元素を除き、玄武岩質捕獲岩より富む傾向が見られる。流紋岩のSrおよびEu濃度はSiO2濃度の上昇に伴い減少する。これらの傾向は、谷口(1990)において指摘されたように、流紋岩の生成における斜長石の結晶分化を反映すると考えられる。また、カミングトン閃石流紋岩は、他の流紋岩試料に比べてYやHREEに富むことから、角閃石の結晶分化も起きていると考えられる。流紋岩と玄武岩の微量元素パターンの特徴から、流紋岩は島弧玄武岩を元に生成され、斜長石や角閃石の結晶分化によって生成されたと考えられる。

先行研究のデータと比較したところ、神津島の玄武岩質捕獲岩は、より沈み込みの浅い伊豆大島や新島の玄武岩に比べ、高い微量元素濃度を持つことが分かった。このことは、太平洋プレートの沈み込む深度の増加に従い、伊豆諸島における玄武岩の微量元素濃度が増加するという先行研究の指摘(Kimura et al., 2010)と調和的である。



文献

1] 谷口宏充, 吉田武義, and 青木謙一郎呑. "伊豆, 神津島火山噴出物の 地球化学." 理研研究報告 23.1 (1990).
2] Kimura, Jun‐Ichi, et al. "Origin of cross‐chain geochemical variation in Quaternary lavas from the northern Izu arc: Using a quantitative mass balance approach to identify mantle sources and mantle wedge processes." Geochemistry, Geophysics, Geosystems 11.10 (2010).