JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC49] 固体地球化学・惑星化学

コンビーナ:下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

[SGC49-12] 182W同位体から読み解くマントル初期進化とコア-マントル相互作用

*鈴木 勝彦1賞雅 朝子2,1藤崎 渉1Tejada Maria Luisa3Satish-Kumar Madhusoodhan4 (1.国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター、2.日本エヌ・ユー・エス株式会社、3.国立研究開発法人海洋研究開発機構・火山・地球内部研究センター 、4.新潟大学・地質学科)

キーワード:マントルの化学進化、ハフニウムータングステン壊変系、タングステン同位体、コマチアイト、核-マントル相互作用

はじめに
Hf-W放射壊変系は182Hfが182Wにベータ壊変する系である。半減期が890万年と非常に短く,182Hfは消滅核種であり,地球のごく初期のHf-Wの分別によって182Wに変動が生じる。親であるHfが親石元素でマントルに残りやすく,他方,娘核種のWは核に入りやすいために,地球のごく初期に核が分離すれば,182Hfと182Wの間で分別が起きる。その結果,Hf/W比の高いケイ酸塩マントルでは地球の初期には現在のマントルより182W/184Wが高く,その後レイトベニアによって182W/184Wの低い隕石質の物質が降り注いでマントルに徐々に浸透したために,現在のマントルの182W/184Wまで値が下がったと考えられる。実際のところ,38億年前マフィック岩や27億年前のコマチアイトには現在のマントルに比べて高い182W/184W(正異常)が報告されている(m182W値として+10 to +15)(Willbold et al. 2011, Touboul et al. 2012, Touboul et al. 2014, Willbold et al. 2015, Liu et al. 2016, Rizo et al. 2016, Dale et al. 2017, Mundl et al. 2018, Puchtel et al. 2018, Reimink et al. 2018, Tusch et al. 2019)。ただし,南アフリカ・バーバート地域の35億年前のSchapenburgおよびKomatiコマチアイトはそれぞれ,負のm182W 値と現在のマントルのm182Wを示している。(Touboul et al. 2012, Puchtel et al. 2018). また,Mei et al. (2019)でも30億年前の中国・Anshanコマチアイトで現在のマントルと誤差範囲で一致する値を報告している。一方,Hf/W比が低いことが想定される核の182W/184Wは現在のマントルより非常に低いことが予測され,核-マントル境界を起源とする海洋島玄武岩およびマントルプルームによる巨大火成岩体(Large Igneous Province)には核の物質が混入して,182W/184Wが低い可能性がある。現世のハワイ・ロイヒ島やサモアなどの海洋島玄武岩には負異常が報告されている(Mundl et al., 2017など)。

本研究では,インドの33億年前のSinghbhum and Dharwarコマチアイト,および2億5千万年前の大規模火成活動による中国・峨眉山洪水玄武岩,1億2000年前のオントンジャワ海台など,深部マントル起源と考えられている岩石について超高精度W同位体のデータを得たので,これを報告し,地球の深部マントルの進化と核-マントル相互作用について報告する。ここで182W/184Wの変動は非常に小さいため,現在のWスタンダード(現在のマントルの値)からの差分を百万分率μ182W(ppm)で表す。
分析方法
地球の岩石に見られるμ182W(ppm)の変動はたかだか数十ppmであるため,超高精度でW同位体比を得る必要がある。本研究では,妨害元素を除去し,数ppmの高精度でW同位体比を得る方法を開発した(Takamasa et al., 投稿中)。この分析手法では,対象岩石の分解溶液からメチルイソブチルケトンによる溶媒抽出,陽イオン,陰イオン交換樹脂を用いてWを分離する。得られた試料溶液を,脱溶媒ネブライザーを備えた多検出器型ICP-MSに導入し,W同位体比を測定した。
結果と考察
標準岩石JB-2を分析したところ,μ182W = -2.1 ± 9.1(2SD)と現在のマントルの値を得た。また,Mundl et al., (2017)は,ロイヒ島とサモア島のμ182Wと3He/3He比に負の相関があり,現在の上部マントルとは逆の方向の延長線上に核が存在することを示唆した。本研究では,ハワイ・ロイヒ火山の海底から玄武岩を得てW同位体を分析し,μ182W = -15 ± 5.9 (2SD) という負の値を得た。この試料は3He/4He = 35Raと高い値を示しており(Matsumoto et al., 2008), Mundl et al. (2017)が報告したWとHe同位体比の相間の線に乗っている。以上の結果から,本研究で開発した分析手法の信頼性が示された。

一方,茶色で示した33億年前に活動したインドのコマチアイトのデータは,これまで報告されたコマチアイトの値(灰色の影の部分)より低い同位体を示しており,33億年前には既に,おそらくLate Veneerの影響でマントルのμ182Wは現在のマントルの値に近くなっていた,あるいは,マントルはこの頃すでに不均質だったことを示唆する。
また, 120Maのオントンジャワ,250Maの峨眉山の大規模火成活動による玄武岩は現在のマントルの値であった。太古代の後のマントルは均質化し,μ182Wの正の異常は無くなることを示唆している。