JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GC 固体地球化学

[S-GC49] 固体地球化学・惑星化学

コンビーナ:下田 玄(産業技術総合研究所地質調査総合センター)、鈴木 勝彦(国立研究開発法人海洋研究開発機構・海底資源センター)、山下 勝行(岡山大学大学院自然科学研究科)、石川 晃(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

[SGC49-P04] マグマオーシャンにおける金属液滴沈降の時間スケールと核マントル分離時の金属元素分別の可能性

鷺 恕太郎1、*小木曽 哲1 (1.京都大学)

キーワード:マグマオーシャン、強親鉄元素、核マントル分離

地球が誕生する過程では、微惑星の集積エネルギーの解放により表面にマグマオーシャンが形成され、その中で鉄ニッケル金属相がケイ酸塩メルトから液滴として分離して沈降し、地球中心に集まって金属核を形成したと考えられている。この過程の中で、オスミウムや白金などの強親鉄性元素は鉄ニッケル金属相に分配され、その大半がそのまま核へ取り去られた、と従来は考えられきた。ケイ酸塩メルト−鉄金属メルト間の高温高圧元素分配実験によれば、ケイ酸塩メルトと鉄金属メルトが平衡に共存していれば、それらの中に含まれている強親鉄元素の大半が鉄金属メルトに分配される。一方、地球の材料となった微惑星の残骸と考えられているコンドライトの中には、強親鉄元素を主成分とする微小な金属相が存在する。最近では、コンドライト中のCAI・コンンドリュール・マトリックスのいずれの部分からも微小な白金族鉱物が発見されている。これらの観察事実は、微惑星中で強親鉄元素の一部が鉄ニッケル金属相とは別の独立相を形成していたことを示している。もしそうだとすれば、地球形成時のマグマオーシャン中でも、白金族鉱物あるいはその溶融相が鉄ニッケル金属相とは独立した微小粒として存在していた可能性がある。マグマオーシャン中にそのような微小な粒子が存在していたとしたら、その沈降速度は極めて遅く、マグマオーシャンが固結するまでに沈降し切らずに残る可能性がある。そこで本研究では、対流するマグマオーシャンの中での金属液滴の沈降の時間スケールを定量的にモデル化し、鉄金属相と強親鉄元素金属相がマグマオーシャン中で分離する条件を検討した。
ケイ酸塩メルトの流れの中に留まることができる液滴の最大径と、流れのなかで液滴が表面張力によって形を保つことができる最大径とを比較することで、金属液滴がケイ酸塩メルトの中を沈降する時間スケールを求めた。そして、最大の液滴がケイ酸塩メルト中を沈降し得るかどうか、沈降する場合はどの程度の速度になるのかを、鉄の金属液滴と白金の金属液滴について検討した。その結果、地球サイズの惑星で存在したと考えられるマグマオーシャンの条件下では、金属液滴がケイ酸塩メルトの流れによって細粒化されやすく、鉄金属の液滴でさえ十分な速度で沈降できるだけの大きさに成長しにくいという結果になった。また、鉄金属と白金金属を比較した場合、同じ条件下では、白金金属の方がケイ酸塩メルトの流れの中により留まりやすい傾向を持つことが明らかになった。このことは、マグマオーシャン中で、鉄−ニッケル金属相は沈降しても強親鉄元素金属相は沈降しない、という状況が存在し得ることを示している。つまり、マグマオーシャン中での核−マントル分離は、それが必ずしも強親鉄元素がマントルから取り去られたことと同義ではない。現在のマントル中の強親鉄元素濃度がケイ酸塩メルト−鉄金属メルト間の分配係数から予想される値より高いのは、上記に示したような、マグマオーシャン中での鉄ニッケル金属と強親鉄元素金属との分別の結果である可能性がある。