JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学

コンビーナ:松尾 功二(国土交通省国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、岡 大輔(地方独立行政法人北海道立総合研究機構環境・地質研究本部地質研究所 )

[SGD02-01] GRACE + GRACE-FO のデータによる2004年スマトラ地震の地震後重力変化に含まれる超長期的成分の検出

*田中 優作1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:余効変動、粘弾性緩和、地殻変動、Burgers rheology、GRACE + GRACE-FO、地震後重力変化

人工衛星GRACEのデータに基づいた地震に伴う重力変化についての研究報告は多くあり、現在までに、地震前・地震時・地震後の重力変化を検出したと報告する論文が各々複数ある。地震前の重力変化についてはそのデータ解析の結果や解釈の妥当性について大きな議論があるので本稿では省略する。地震時の重力変化については本震の断層運動に起因すると考えて矛盾は無く、地震後の重力変化についてはアフタースリップとマントルの粘弾性緩和の寄与が考えられるが、特に粘弾性緩和は長期的な地震後の重力変化をもたらしていると考えられている。

一方、GNSS観測に基づいた研究では、長期的な余効変動は、粘弾性緩和が更に短期成分と長期成分に分離されるモデル(Burgers rheology: Maxwell model と Voigt model を直列に繋いだ粘弾性モデル)で考えるのが妥当であるとする報告がある。また、2015年には、GNSSとGRACE衛星のデータ解析を利用した研究で、「2004年スマトラ地震の地震後重力変化は Burgers rheology によっても説明できるが、その粘性はGNSS観測で見積もられる値より大きい。これは空間的に不均一なアセノスフェアの粘性構造に起因するのであろう」と報告されている(Broerse et al., 2015, JGR)。ただし、2015年時点で得られていた重力変化の時系列(Time-Variable Gravity, 以下 TVG)は、それだけに基づいて「長期的な重力変化は Burgers rheology では説明できるが Maxwell model や Voigt model では説明できない」とまで言えるものではなかった。

GRACE衛星の運用は2017年に終了したものの、2018年5月には後継機GRACE-FOの運用が開始された。そこで本研究では、2019年9月までのGRACE-FO衛星のデータをGRACE衛星のデータと組み合わせて、2004年スマトラ地震後のより長期的なTVGを調査した。先行研究で示されている2004年スマトラ地震の長期的な地震後重力変化のピークの位置のTVG(以下、peak-TVG)を確認したところ、2004年スマトラ地震以降の peak-TVG は、震央の近い2012年インド洋地震までは指数関数で十分に近似可能であり、2012年インド洋地震のころには横ばいに近づいていたが、それ以降は線型的な増大を見せていた。この現象については二通りの物理的解釈が可能であり、以下では各々の解釈と、それに従って行ったデータ解析の結果について述べる。

第一の解釈は Maxwell model や Voigt model のみで peak-TVG の説明を試みるものである。すなわち「2004年スマトラ地震(逆断層, Mw9.1-9.3)の余効変動とは別に、より海洋側に震央を持つ2012年インド洋地震(横ずれ断層, Mw8.6)でも大きな余効変動が発生した。そして、上部マントルの粘性構造の空間不均一等による何らかの物理的作用によって、重力変化としては、そのシグナルは線型で現れていた」という解釈である。この解釈に従って重力変化の空間分布を求めたところ、2012年インド洋地震の地震後重力変化として算定された重力変化は2004年スマトラ地震の断層に沿って伸び、そのピークの位置は2004年スマトラ地震の地震後重力変化のピークの位置と重なった。この解釈が妥当であるならば、メカニズムも発生位置も異なる二つの地震の地震後重力変化がピークの位置まで含めて空間パターンを共有しているが、片方は指数関数に沿って増大する一方で他方は線型で増大するというように、時間変化のパターンは共通性を持たないということになる。

第二の解釈は Burgers rheology に基づいて peak-TVG の説明を試みるものである。すなわち「2004年スマトラ地震後の長期的な重力変化は Burgers rheology に従って二種類の粘弾性緩和の重ね合わせで進行しており、2012年以降はより長期的な成分が支配的になった。この切り替わりの間にたまたま2012年インド洋地震が発生したのであって、2012年インド洋地震の余効変動はそれほど大きなものではなかった」という解釈である。この解釈に従って求めた重力変化の空間分布は、二種類の粘弾性緩和が共に2004年スマトラ地震の断層に沿って伸び、それらのピークの位置も一致するものだった(図参照)。

これらの結果を踏まえ、本研究では第二の解釈が自然であろうと結論づけた。すなわち、粘弾性緩和で説明される地震後の長期的な重力変化には Burgers rheology で考えられるような「超長期的成分」が存在し、Maxwell model や Voigt model では説明不可能なのであろうということである。先述の通り、上部マントルの粘性構造を考える際に Burgers rheology が必要であろうことを重力データのみに基づいて明らかにした報告はこれまでに無く、本研究が初めてのものである。

[図の簡単な説明]
GRACE + GRACE-FO のデータを用いて緯度・経度0.5度刻みで重力時系列(TVG)の時系列解析を行って求めた、2004年スマトラ地震と2012年インド洋地震に起因する重力変化の空間分布(図a-d)と、星印部のTVG(図e)。図a-dでは震源球を震央に書いた。図a, dは先行研究で求められている地震時の重力変動の空間分布と良く一致している。データ解析では図eでエラーバー付きの黒丸で示したデータを用い、エラーバー無しの白丸で示したデータは除外した。図eの赤とオレンジの点線は、それぞれ最小二乗法で見積もられた2004年スマトラ地震の短期的粘弾性緩和(時定数1.3年)と長期的粘弾性緩和(線型)の変動量であり、赤とオレンジを足すと青の実線になる。尚、長期的粘弾性緩和には指数関数でもフィッティングを試みたが、時定数を200年にまで伸ばしても直線の方が標準偏差が小さくなったため、ここでは直線を用いた結果を示した。図b中の赤丸は、予稿の図の枚数の都合上省略しているが、2004年スマトラ地震までは平坦だったTVGが、地震後に数年かけて減少し、それから増大している地点であり、二種類の粘弾性緩和が進行していることへの示唆を与えている。講演ではその様子も示す予定である。