JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD02] 測地学

コンビーナ:松尾 功二(国土交通省国土地理院)、横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、岡 大輔(地方独立行政法人北海道立総合研究機構環境・地質研究本部地質研究所 )

[SGD02-06] 画像解析技術を用いた可搬型相対重力計の器械傾斜量の把握

岡田 有生1、*風間 卓仁1 (1.京都大学理学研究科)

キーワード:重力、傾斜、連続観測、火山、画像解析、Python

重力連続観測は火山活動に関わる質量の時空間変動を理解するのに有効な手法の1つである。しかし、重力計の器械が傾斜すると見かけの重力変化が生じるため、実際の重力シグナルのノイズ源となる。例えば、2015年桜島急膨張イベント時には60 micro-rad前後の傾斜変化が起き(e.g., Hotta et al., 2016)、CG-3M型重力計でも有意な見かけ重力変化が観測された。ただし、CG-3M型重力計は電子傾斜計を内蔵していたため、器械傾斜に伴う見かけ重力変化を精度良く補正することができ、その結果約6 micro-Galという微小な重力シグナルを検出することに成功した(風間ほか, 2016)。

このように、重力時間変化を正確に把握するには器械傾斜量も同時に監視すべきであるが、そもそも重力値と傾斜値を同時測定できる重力計(例えば桜島のCG-3M型重力計など)は台数が少ない。日本の火山地域で一般的に使用されているのはラコスト型相対重力計であり、この重力計には気泡型ないし指針型の傾斜計が付属しているのみである。そこで我々は、火山地域で一般的なラコスト重力計でも重力・傾斜の並行連続観測を実現できるよう、傾斜計の写真画像から器械傾斜量を定量的に把握する技術を考案した。本稿では、重力計の傾斜実験の詳細と、この実験データから得られた傾斜変化の解析結果を示す。

我々はラコスト型相対重力計をフィードバック式に改造したD58重力計を用いて、京都大学理学研究科1号館地下の重力計室で傾斜実験を行った。D58は指針型傾斜計および気泡型傾斜計を有しており、器械傾斜量を目視で確認できる。また、D58は電子型傾斜計も内蔵しており、重力値や傾斜値を無線規格Bluetoothによって任意のデバイスに2 Hz間隔で連続的に送信できる。傾斜実験においては、まずD58を重力計検定用の傾斜台に置き、指針型・気泡型傾斜計の写真を撮影できるようD58の直上にUSBカメラを設置した。その後、傾斜台を -100 ~ +100 arc-secの間で段階的に傾け、電子型傾斜計の傾斜値と重力値を収録した他、指針型・気泡型傾斜計の写真を10秒ごとに撮影した。

我々は指針型・気泡型傾斜計の画像データをPython言語の自作プログラムを用いて解析し、画像データから器械傾斜量を以下の通り数値化した。まず指針型傾斜計の写真では、複数の基礎的な画像処理によって針のエッジを抽出し、針の位置をピクセル座標値に数値化した。また、気泡型傾斜計の写真では、基準となる気泡写真をエッジ化し、楕円回帰によって気泡のエッジのみを抽出した。この気泡エッジを基準として全ての気泡エッジ写真に相互相関解析を実施し、基準気泡に対する各気泡位置をピクセル座標値に数値化した。

以上の解析で得られた指針および気泡傾斜値を電子傾斜値に対してXYプロットすると、各傾斜値の間に明瞭な線形関係が確認された。また、各散布図に対して線形回帰を適用すると、相関係数は指針傾斜値で+0.9999、気泡傾斜値で+0.995となった。これは、傾斜計の写真を本手法によって画像解析すれば相対重力計の器械傾斜量を高精度に数値化できることを意味している。今後我々は本手法で得られた傾斜値を用いて傾斜に伴う見かけ重力変化を補正し、見かけ重力変化の補正精度を検証する。また、実際の火山地域でも同様の観測システムを導入し、火山活動に伴う傾斜や重力の時間変化を連続的に監視する予定である。