[SGD02-07] 海上保安庁のGNSS-A海底測位ルーチン解析へのキネマティック精密単独測位の適用
キーワード:GNSS-音響測距結合方式、精密単独測位(PPP)、衛星時計補正情報、GNSS速報暦
海上保安庁海洋情報部は,2000年代初頭から音波を使用したグローバル海底測位手法(GNSS-A;Global Navigation Satellite System–音響測距結合方式)を開発し,沈み込み帯のプレート境界浅部の地殻変動を観測してきた(e.g., Fujita et al., 2006 EPS; Yokota et al., 2018 Sci. Data).GNSS-A観測は,これまでに南海トラフのプレート境界上の固着分布(Yokota et al., 2016 Nature)や東北沖地震震源域の地震後地殻変動分布(Watanabe et al., 2014 GRL)を明らかにした他,2011年の東北地方太平洋沖地震の直後には,数十メートルの地震時海底変位を検出し(Sato et al., 2011 Science),このイベントに対する研究者の理解に貢献した.最近では,Yokota and Ishikawa (2020 Sci. Adv.)は,GNSS-A観測のスロースリップイベント検出能力を示し,いくつかのイベントの発生を確認した.このようなプレート間地震やスロースリップイベントなどによる海底の動きを迅速に報告することは,地殻活動に関する議論のための情報を,その早い段階で提供する点で重要である.
海洋情報部のGNSS-Aルーチン解析では,基線解析を使用して正確な測量船位置を決定している.基線解析には,その位置が事前に決定された陸上基準点でのGNSS観測データが必要となる.ルーチン解析では,国土地理院から提供いただいたGEONET点(1 Hzデータ)をF3解(中川・他, 2009 地理院時報)で固定して使用している.測量船の位置決定には,基準点データに加えて精密衛星軌道などのGNSSプロダクトが必要となり,通常時は12〜18日後に入手可能な最終暦を使用する.一方,オンラインで17〜41時間以内に公開される迅速暦を用いれば,最短で数日以内にGNSS-A暫定解を求めることができる.ただし,他機関からハイレートGNSSデータを受け取る必要があるため,特に大地震直後の緊急観測の場合,連絡の不備や遅延が発生する可能性等がある点に注意が必要となる.
他の解析手法として,キネマティック精密単独測位(PPP)を用いれば,基準点なしでも正確な測位が可能となる.最近では,インターネット経由でPPPに必要なGNSSプロダクト(ハイレートの衛星クロック補正情報)は簡単に入手できる.したがって,PPPには,より迅速なGNSS-A解を求める上で,基線解析よりも有利である.
本研究では,音響機器が船底に艤装されるようになった2008年以降のデータを用いて,基線解析と最終暦を用いたPPP,及び迅速暦を用いたPPPの,GNSS-A解への依存性を評価した.基線解析には現在のルーチン解析で使用しているソフトウェアIT(Colombo, 1998) version 4.2を,PPP解析にはRTKLIB version 2.4.2(Takasu, 2013)を用いた.キネマティックGNSS解析以外のGNSS-A解析はYoktota et al. (2018 Sci. Data) と同一の手法を用いた.いくつかのGNSS-A観測点の解析の結果,いずれの場合もGNSS-Aの変位時系列は海底測位精度内で同等の安定性が得られることがわかった.
謝辞: GNSS解析ソフトウェアITは,NASA GSFC の O. L. Colombo氏より提供いただきました.東京海洋大学の高須知二氏の開発したオープンソースGNSS解析ソフトウェアRTKLIB version 2.4.2は,http://www.rtklib.com/ より入手しました.国土地理院より提供いただいたGEONETのハイレート GNSS データ及びF3解を使用しました.
海洋情報部のGNSS-Aルーチン解析では,基線解析を使用して正確な測量船位置を決定している.基線解析には,その位置が事前に決定された陸上基準点でのGNSS観測データが必要となる.ルーチン解析では,国土地理院から提供いただいたGEONET点(1 Hzデータ)をF3解(中川・他, 2009 地理院時報)で固定して使用している.測量船の位置決定には,基準点データに加えて精密衛星軌道などのGNSSプロダクトが必要となり,通常時は12〜18日後に入手可能な最終暦を使用する.一方,オンラインで17〜41時間以内に公開される迅速暦を用いれば,最短で数日以内にGNSS-A暫定解を求めることができる.ただし,他機関からハイレートGNSSデータを受け取る必要があるため,特に大地震直後の緊急観測の場合,連絡の不備や遅延が発生する可能性等がある点に注意が必要となる.
他の解析手法として,キネマティック精密単独測位(PPP)を用いれば,基準点なしでも正確な測位が可能となる.最近では,インターネット経由でPPPに必要なGNSSプロダクト(ハイレートの衛星クロック補正情報)は簡単に入手できる.したがって,PPPには,より迅速なGNSS-A解を求める上で,基線解析よりも有利である.
本研究では,音響機器が船底に艤装されるようになった2008年以降のデータを用いて,基線解析と最終暦を用いたPPP,及び迅速暦を用いたPPPの,GNSS-A解への依存性を評価した.基線解析には現在のルーチン解析で使用しているソフトウェアIT(Colombo, 1998) version 4.2を,PPP解析にはRTKLIB version 2.4.2(Takasu, 2013)を用いた.キネマティックGNSS解析以外のGNSS-A解析はYoktota et al. (2018 Sci. Data) と同一の手法を用いた.いくつかのGNSS-A観測点の解析の結果,いずれの場合もGNSS-Aの変位時系列は海底測位精度内で同等の安定性が得られることがわかった.
謝辞: GNSS解析ソフトウェアITは,NASA GSFC の O. L. Colombo氏より提供いただきました.東京海洋大学の高須知二氏の開発したオープンソースGNSS解析ソフトウェアRTKLIB version 2.4.2は,http://www.rtklib.com/ より入手しました.国土地理院より提供いただいたGEONETのハイレート GNSS データ及びF3解を使用しました.