[SGD02-10] 船舶搭載GNSSによる可降水量の誤差と鉛直座標誤差との関係
キーワード:GNSS気象学、移動体測位、海洋観測
海上での水蒸気観測拡充を目的に,主に九州西方の東シナ海を航行する8隻の船舶に二周波GNSS受信機を設置し,2018年12月から順次実験観測を開始した.以後2020年2月現在まで連続観測を継続している.
観測に利用する主な機器は二周波GNSSアンテナ(Trimble製 Zehyr3 Rugged),受信機(Trimble製Alloy),及び気象測器(英弘精機製WS300)である.サンプリング間隔はGNSSが1秒,気象計が1分としている.通信ロガーで船が港に入港する度にGNSSデータと気象データを気象研究所に送り,事後解析を行っている.
解析にはRTKLIB (ver. 2.4.2, p13)(Takasu 2013)のKinematic PPP解析を用いた.衛星軌道はMADOCAリアルタイムプロダクトを用い,Kinematic解析により1秒間隔で天頂湿潤遅延量と座標解析を行う.マッピング関数にはGMF(Boehm et al., 2006)を用い,天頂遅延量勾配は推定していない.アンテナが回転や傾くことから,アンテナ位相特性モデルは適用していない.測位衛星はGPS, GLONASS,QZSSを利用.天頂湿潤遅延量の時間拘束はデフォルト(0.1mm/sqrt(s))より3倍程度強い0.03mm/sqrt(s)とした.GNSS解析で推定された天頂遅延量,及びWS300で観測された気圧と気温を用いて可降水量を1分間隔で算出した.
凌風丸船上で観測された高層ゾンデとの比較では,63サンプルに対して平均差-0.70mm,標準偏差1.83mm,またGCOM-W1衛星搭載マイクロ波放射計観測との比較では774サンプルに対して平均差+0.26mm,標準偏差3.03mmであった.これはShoji et al. (2017)などと同等の結果といえる.
GNSS解析による可降水量(PWV)の誤差は,同時に推定される鉛直座標の誤差と逆比例の関係にある(例えばShoji et al. 2000).
船舶搭載GNSSの可降水量解析に与える座標誤差の影響を評価するため,沖縄県那覇市の陸上固定点である国土地理院電子基準点P212(P那覇)にKinematic解析を適用し,Static解析との鉛直座標,及び可降水量の差を調べたところ,Kinematic解析による鉛直座標は,Static解析と最大で10cm程度異なる場合があり,鉛直座標差とPWV差は回帰式の傾き-0.014の逆比例の関係にあり,Kinematic解析による鉛直座標がStatic測位のそれより10cm高い場合,可降水量は約15mm程度過小評価となることがわかった.
船舶GNSSの鉛直座標誤差を推定するには,海面高度を求める必要がある.今回,潮汐予測モデルNAO.99b(Matsumoto et al., 2000)を海面高度のレファレンスとして使用した.
陽光丸(西海区水産研究所)が長崎市多以良町の港に停泊していた期間(2019/8/13-22)について,Kinematic解析によるアンテナ座標と,潮汐予測モデルNAO.99bによる海面高度を,GNSSアンテナから海面までの平均距離を差し引いた後比較したところ,両者は概ね一致していた.
両者の差(dALT)は数10cm程度の振幅で時間変化している.また近傍の電子基準点”0832(外海)”にStatic解析を適用し,求めたPWVと陽光丸PWVとの差(dPWV)とdALTの時間変化に共通性がみられた.電子基準点におけるStatic解析とKinematic解析の差から求めた鉛直座標差とPWV差の線形回帰式を適用し,陽光丸のPWVを補正したところ,近傍電子基準点”0832”のPWVとの差の標準偏差が2.7mmから2.3mmと一致度が高まった(図).
今回陽光丸が停泊中での補正を試みたが,今後航行中にも適用可能か調査を進める.
謝辞
丸三海運様,南日本汽船様,鹿児島荷役海陸運輸様,琉球海運様,西海区水産研究所様には多大なご協力を賜り,心より感謝申し上げます.
電子基準点データは国土地理院のFTPサーバーより取得しました.
引用文献
Boehm J. et al., 2006: J Geophys Res., 111:B02406. https://doi.org/10.1029/2005JB003629
Matsumoto, K. et al., 2000: Journal of Oceanography, 56, 567-581.
Shoji, Y. et al., 2017: Earth Planets Space. 69, 153.
Shoji, Y. et al., 2000: Earth Planets Space, 52, 685-690.
Takasu T., 2013: RTKLIB 2.4.2 manual. http://www.rtklib.com/prog/manual_2.4.2.pdf. Accessed 1 February 2020.
観測に利用する主な機器は二周波GNSSアンテナ(Trimble製 Zehyr3 Rugged),受信機(Trimble製Alloy),及び気象測器(英弘精機製WS300)である.サンプリング間隔はGNSSが1秒,気象計が1分としている.通信ロガーで船が港に入港する度にGNSSデータと気象データを気象研究所に送り,事後解析を行っている.
解析にはRTKLIB (ver. 2.4.2, p13)(Takasu 2013)のKinematic PPP解析を用いた.衛星軌道はMADOCAリアルタイムプロダクトを用い,Kinematic解析により1秒間隔で天頂湿潤遅延量と座標解析を行う.マッピング関数にはGMF(Boehm et al., 2006)を用い,天頂遅延量勾配は推定していない.アンテナが回転や傾くことから,アンテナ位相特性モデルは適用していない.測位衛星はGPS, GLONASS,QZSSを利用.天頂湿潤遅延量の時間拘束はデフォルト(0.1mm/sqrt(s))より3倍程度強い0.03mm/sqrt(s)とした.GNSS解析で推定された天頂遅延量,及びWS300で観測された気圧と気温を用いて可降水量を1分間隔で算出した.
凌風丸船上で観測された高層ゾンデとの比較では,63サンプルに対して平均差-0.70mm,標準偏差1.83mm,またGCOM-W1衛星搭載マイクロ波放射計観測との比較では774サンプルに対して平均差+0.26mm,標準偏差3.03mmであった.これはShoji et al. (2017)などと同等の結果といえる.
GNSS解析による可降水量(PWV)の誤差は,同時に推定される鉛直座標の誤差と逆比例の関係にある(例えばShoji et al. 2000).
船舶搭載GNSSの可降水量解析に与える座標誤差の影響を評価するため,沖縄県那覇市の陸上固定点である国土地理院電子基準点P212(P那覇)にKinematic解析を適用し,Static解析との鉛直座標,及び可降水量の差を調べたところ,Kinematic解析による鉛直座標は,Static解析と最大で10cm程度異なる場合があり,鉛直座標差とPWV差は回帰式の傾き-0.014の逆比例の関係にあり,Kinematic解析による鉛直座標がStatic測位のそれより10cm高い場合,可降水量は約15mm程度過小評価となることがわかった.
船舶GNSSの鉛直座標誤差を推定するには,海面高度を求める必要がある.今回,潮汐予測モデルNAO.99b(Matsumoto et al., 2000)を海面高度のレファレンスとして使用した.
陽光丸(西海区水産研究所)が長崎市多以良町の港に停泊していた期間(2019/8/13-22)について,Kinematic解析によるアンテナ座標と,潮汐予測モデルNAO.99bによる海面高度を,GNSSアンテナから海面までの平均距離を差し引いた後比較したところ,両者は概ね一致していた.
両者の差(dALT)は数10cm程度の振幅で時間変化している.また近傍の電子基準点”0832(外海)”にStatic解析を適用し,求めたPWVと陽光丸PWVとの差(dPWV)とdALTの時間変化に共通性がみられた.電子基準点におけるStatic解析とKinematic解析の差から求めた鉛直座標差とPWV差の線形回帰式を適用し,陽光丸のPWVを補正したところ,近傍電子基準点”0832”のPWVとの差の標準偏差が2.7mmから2.3mmと一致度が高まった(図).
今回陽光丸が停泊中での補正を試みたが,今後航行中にも適用可能か調査を進める.
謝辞
丸三海運様,南日本汽船様,鹿児島荷役海陸運輸様,琉球海運様,西海区水産研究所様には多大なご協力を賜り,心より感謝申し上げます.
電子基準点データは国土地理院のFTPサーバーより取得しました.
引用文献
Boehm J. et al., 2006: J Geophys Res., 111:B02406. https://doi.org/10.1029/2005JB003629
Matsumoto, K. et al., 2000: Journal of Oceanography, 56, 567-581.
Shoji, Y. et al., 2017: Earth Planets Space. 69, 153.
Shoji, Y. et al., 2000: Earth Planets Space, 52, 685-690.
Takasu T., 2013: RTKLIB 2.4.2 manual. http://www.rtklib.com/prog/manual_2.4.2.pdf. Accessed 1 February 2020.