JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL33] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

コンビーナ:細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)、大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SGL33-03] 隠岐島後に分布する新生代火山岩類の時間変遷

*相澤 正隆1新城 竜一2岡村 聡3,4 (1.琉球大学 理工学研究科、2.琉球大学 理学部、3.北海道教育大学、4.北海道土質試験協同組合)

キーワード:マントル捕獲岩、日本海拡大、隠岐、新生代火山岩

はじめに

 島根県北方に位置する隠岐島後には,西南日本弧の飛騨帯に対比される中・古生界の隠岐変成岩類と暁新世~始新世の島後南谷花崗岩を基盤とし,漸新世~更新世の火山岩類と堆積岩類が全域に分布する。本地域は国内有数のかんらん岩捕獲岩の産地としても有名である。鮮新世以降のアルカリ玄武岩が,上部マントル由来のかんらん岩を頻繁に捕獲しており,これらのかんらん岩は日本海の背弧海盆拡大時に大量に噴出した玄武岩マグマの残存固相と考えられている(Abe et al., 2003など)。

 一方,新生代の火山岩については,中期中新世以前は非アルカリ岩の活動が中心だったのに対し,日本海の拡大が終了した後期中新世以降はアルカリ岩の活動が中心となるが(鈴木ほか, 2009),これらの新生代火山岩についての詳細な岩石学的研究成果はほとんど公表されていない。本研究では,日本海の拡大イベントと関連させつつ,隠岐島後に分布する新生代火山岩の化学組成の時間変遷について報告する。



地質と岩石

 本研究では,漸新世以降の火山岩について取り扱う。漸新世~前期中新世の時張山層は,主に変質の進んだ安山岩質火砕岩から構成され,変質の著しい斜長石,単斜輝石,直方輝石,角閃石を斑晶として含む。火山豆石がみられる場合もある。前期中新世の郡層は,主に玄武岩質の溶岩と火砕岩からなり,斜長石,単斜輝石,かんらん石,直方輝石を斑晶として含む。かんらん石は完全に変質しているが,他の鉱物は新鮮である。後期中新世~前期鮮新世の重栖層と葛尾層は,主にデイサイト~流紋岩,粗面岩の溶岩から構成され,島後西部の油井地域周辺のショショナイト貫入岩も同時期の岩石である。酸性岩は無斑晶質でガラス質なものが多く,斑晶としては石英,長石がみられる。ショショナイトは郡層中に貫入しており,斑状組織で斜長石,単斜輝石,かんらん石,直方輝石を斑晶として含む。かんらん石は完全に変質している。前期鮮新世以降はほぼ全てアルカリ玄武岩の溶岩と岩脈として分布し,極めて新鮮なかんらん石と,分化の程度によって様々な量の単斜輝石,斜長石が斑晶として含まれる。かんらん石斑晶はスピネル包有物を含む。いくつかの地点の溶岩では,サンバーンと呼ばれる水和した斑点がみられる。また,この時代のアルカリ玄武岩中に,かんらん岩,直方輝岩,花崗岩,斑れい岩が捕獲岩として包有される。

 かんらん岩はレルゾライト,ハルツバージャイト,ダナイト,ウェールライトがみられ,特にレルゾライト中には(Mg, Fe2+)Al2O4で表されるスピネル-ヘルシナイト固溶体,およびCrを最大で7 wt%程度含むクロムスピネルがみられるスピネルレルゾライトであり,最上部マントルを構成していたかんらん岩が捕獲されていると考えられる。かんらん岩の直方輝石,および直方輝岩の周囲には,母岩のアルカリ玄武岩メルトと反応した反応縁が形成されているが,単斜輝石とかんらん石とメルトが接する部分にはこのような反応縁がみられない。



全岩化学組成の時間変遷

Total Alkali-Silica図において,日本海の拡大前~拡大期の火成活動に由来する時張山層・郡層の火山岩は,非アルカリ岩とアルカリ岩が混在している。一方,日本海の拡大が終了した後の重栖層以降の火山岩はアルカリ岩のみがみられ,SiO2量が70 wt%を超えるとアルカリ元素の含有量が減少に転じるため,非アルカリ岩の領域にプロットされるようになる。玄武岩質~安山岩質の岩石では,時代により特にTiO2含有量が大きく異なり,時張山層・郡層では0.5-1 wt%程度なのに対し,鮮新世以降の玄武岩とショショナイト貫入岩では1.8-3.6 wt%と高い含有量を示す。N-MORB規格化パターンは,日本海拡大前~拡大期の火山岩ではN-MORBからE-MORBの中間的な規格化濃度で,Nb-Taの負異常,Pbの正異常がみられる一方,日本海拡大後の火山岩ではOIBに近い規格化濃度で,正負の異常の小さいパターンに変化している。Zr/Nbは,時張山層,郡層,ショショナイト貫入岩では20-26とN-MORBに似た高い比を示すのに対し,重栖層,葛尾層,鮮新世以降の玄武岩では3.8-14とE-MORBからOIBに似た低い比を示す。以上の特徴は,中期中新世を境にマントルの組成が大きく変化した点は東北日本弧の背弧側火山岩と一致するものの,日本海拡大後に肥沃なアルカリ岩の活動が生じている点では異なる。

鮮新世以降の玄武岩の一部は,Cr含有量がやや低いものの(~450 ppm),低いFeO*/MgOと高いMgO,Ni含有量(~12.5 wt%,~400 ppm)を有し,未分化玄武岩(周藤, 2009)の特徴を示す。これらの未分化玄武岩から求めたマントル中の部分融解圧力(Hirose and Kushiro, 1993)は約1.5-0.8 GPa,玄武岩のアルカリ元素とSiO2含有量から求めた部分融解度(Kushiro, 1994)は約10%程度である。これらの温度圧力条件は,同時期の中国地方の未分化玄武岩(Pineda-Velasco et al., 2018)と比較し,同程度の圧力でやや高い部分融解度である。隠岐島後は沈み込んだフィリピン海プレートのスラブウィンドウ上に位置することから,中国地方との部分融解度の違いはスラブの影響の有無を見ている可能性がある。