JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL33] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

コンビーナ:細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)、大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SGL33-08] 九州東部における仏像構造線周辺の地質および熱構造

*後藤 寛貴1中野 敬太1辻 智大1 (1.山口大学大学院創成科学研究科)

キーワード:九州東部、南部秩父帯、仏像構造線、ビトリナイト反射、熱構造、海嶺沈み込み

はじめに 西南日本外帯に分布する南部秩父帯と四万十帯は仏像構造線(BTL)によって画されている.両地質体の形成年代はBTLを境に平均20~30Myの年代ギャップが存在しており,その形成要因の推定が盛んに行われている.年代ギャップの主な要因としては海台の沈み込みに伴う構造侵食(Wakita et al.,2018)やBTLの再活動(大和大峯研究グループ,2012)が挙げられるが,明確な結論が見出されていない.近年,ビトリナイト反射率(Rm)やイライト結晶度(IC)を用いた古地温構造解析から付加体の構造発達史が検討されている.特に,四国四万十帯や関東山地の秩父・四万十帯において熱構造が求められている(Sakaguchi,1996;原ほか,1998).
九州東部では主に四万十帯を中心とした熱構造が検討されており,南部秩父帯と四万十帯は最高被熱温度にギャップが存在している(大森,1999).これらの年代および熱構造のギャップの形成要因の解明は,ジュラ紀から白亜紀付加体のテクトニクスの理解において重要な課題である.しかしながら,九州東部ではBTL周辺の南部秩父帯と四万十帯の地質構造と熱構造の検討は十分になされていない.そこで本研究は,大分県佐伯地域に分布する南部秩父帯と四万十帯の熱構造を検討するために,地質調査およびRm測定を行った.

地質概要 南部秩父帯は3ユニットに区分される.海洋プレート層序が累重する尺間山ユニット,泥質メランジュである床木ユニットを陸棚斜面堆積物の津井層が覆う.四万十帯は砂岩泥岩互層から構成される下部佐伯亜層群が分布している.床木ユニットと下部佐伯亜層群はNE走向・高角北傾斜のBTLで接する.また,尺間山ユニットは後期ジュラ紀(158Ma),津井層は後期ジュラ紀から前期白亜紀(140Ma),床木ユニットは後期ジュラ紀から前期白亜紀(144Ma),下部佐伯亜層群は前期白亜紀(108Ma)の砕屑性ジルコンU-Pb年代が求められている.

研究手法 Rm測定のために各ユニットの砂岩から1~8試料をサンプリングした.粉砕した試料をふるい分け,重液分離し炭質物を採取した.反射顕微鏡で炭質物を観察し,ビトリナイトの反射率を測定した.温度換算はSweeney and Burnham(1990)の換算式を用いた.

結果 南部秩父帯では尺間山ユニットが3.14%,床木ユニットが2.83~3.04%の値を示した.津井層では1.24~2.03%の値を示し,尺間山・床木ユニットと比較して0.8~1.9%低い値となった.一方で,四万十帯の下部佐伯亜層群は2.08%の値を示し,床木ユニットより0.75~0.96%低い値となった.

議論 Sakaguchi(1996)は四国中央部の熱構造を検討し,南部秩父帯から四万十帯でBTLを境にRmが変化せず,南部に向かうほどRmが増加する傾向を示した.この熱構造は四国中央部では秩父帯と四万十帯の基本的な地質構造が決定された後に,熱的要因によって過熱されたことで形成されたと考えられている.一方,本地域ではBTLを境に南部秩父帯のRmが四万十帯と比較して高い値を示した.これは本地域の基本的な熱構造が決定した後にBTLが活動したことを示唆する.
このように,本地域の熱構造が四国中央部と異なる原因として,以下の2つの説が考えられる.第1に熱的要因を被った時期が異なるという説である.秩父帯および四万十帯を過熱した要因として,クラ-太平洋海嶺や若い海洋プレートの沈み込みが推定されている.また,木下・伊藤(1986)はクラ-太平洋海嶺の沈み込みモデルを提唱しており,海溝に対して海嶺が西から東へ移動したとしている.この沈み込みモデルに基づくと,本地域では四国中央部と比較して早い時期に海嶺の沈み込みとそれに伴う地質体の過熱が起こった可能性がある.第2にBTLの活動時期が異なるという説である.四国中央部では海嶺または若い海洋プレートの沈み込みの後にBTLは活動していないが,本地域ではBTLが再活動したことが考えられる.BTLの再活動は紀伊山地において大峯-大台スラストの第2期の活動が知られている(大和大峯研究グループ,2012).これらはBTLの活動が地域的に不均質である可能性を示す.