JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL33] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

コンビーナ:細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)、大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)

[SGL33-P02] 紀伊半島四万十累帯牟婁付加シークェンス砂岩の砕屑性ジルコンU-Pb年代

*別所 孝範1鈴木 博之2山本 俊哉3檀原 徹4岩野 英樹4平田 岳史5 (1.大阪市立大学理学部地球学教室、2.南紀熊野ジオパークセンター、3.和歌山県立田辺高校、4.京都フィッショントラック(株)、5.東京大学)

キーワード:ジルコンU-Pb年代、古第三系牟婁付加シークェンス、四万十累帯、紀伊半島

紀伊半島四万十累帯の堆積年代は今まで放散虫化石年代が主であったが,最近,砕屑性ジルコンのフィッショントラック年代(大平ほか,2016)やU-Pb年代(常盤ほか,2016;Tokiwa, T. et al, 2017)が報告されている.しかしながら,これらの報告は紀伊半島四万十累帯の白亜系および古第三系音無川付加シークェンス(暁新統~下部始新統)のもので,より新しい古第三系牟婁付加シークェンス(牟婁AS:中期始新世~前期漸新世)については報告がない.今回,牟婁AS砂岩の砕屑性ジルコンU-Pb年代を検討し,放散虫化石年代との比較を試みた.また,中期始新世以降の東アジア先カンブリア時代岩石からの砕屑物供給増加の原因について考察した.牟婁付加シーケンスはスラストで境された四つの構造層序ユニット(TU),すなわち北より,野竹・狼乢山(おおかみだわさん)・市鹿野・周参見に区分され,その年代は南ほど若くなるという付加体特有の構造を持っている. 今回,砕屑性ジルコンU-Pb年代を検討したのは野竹TU上三栖層,市鹿野TU打越層,そして周参見TU佐本川層の砂岩3試料である.放散虫化石から野竹TUは中期始新世,市鹿野TUは中期始新世後半~後期始新世前半であるのに対し,周参見TUは中期始新世後半~前期漸新世とやや新しい付加体とされている.砕屑性ジルコンの最若ピーク年代の加重平均は野竹TU:72.0±0.2 Ma, 市鹿野TU:36.1±1.9 Ma,周参見構造TU: 59.6±1.0 Maであった.野竹TUや周参見TUの値は放散虫化石より明らかに古く,これは火成活動のHiatusの影響が考えられるが,市鹿野TUの値は堆積年代とほぼ一致し,同時代の火成岩に由来すると推定される.三試料とも,ごくわずかな古原生代ジルコンを含んでいる(1600-2500 Ma)がその頻度は若いユニットほど,増加する.このジルコンの多くは円磨されていることからリサイクル粒子と考えられ,東アジア先カンブリア時代堆積岩からの供給が増加したものと推定される.従来,牟婁ASの堆積時期である中期始新世以降(48 Ma~)に東アジア先カンブリア時代岩石からの供給が増加したことは,円磨ジルコン,紫色の円磨ジルコン,Ig2型ザクロ石量の増加(別所,2012)やオーソコォーツアイト礫の存在(Tokuoka,1970; 徳岡・別所,1980)から推定されてきたが,今回の先カンブリア時代のジルコンの含有量変化からも支持される.その原因として,火成活動の不活発な時期であったこと,この時期に地球規模の寒冷化に伴う氷河性海面変動で海面が低下(Bickert and Henrich., 2011) により陸上浸食が活発化したこと,さらに牟婁ACのような大規模な海底扇状地堆積物が発達したことなどが推定される.本研究は令和元年度南紀熊野ジオパーク研究助成を受けたものである.