[SGL33-P06] 砕屑性ジルコン年代分布からみる東北日本蝦夷堆積盆の後背地
キーワード:白亜系、砕屑性ジルコン、蝦夷堆積盆、蝦夷層群、双葉層群、那珂湊層群
はじめに
北海道には,白亜系~古第三系蝦夷層群が狭長に分布し,東北日本太平洋側には上部白亜系双葉層群および那珂湊層群が点在する1).これら上記白亜系は,東アジア大陸東縁弧-海溝系の前弧海盆を埋積した堆積岩層とされ,この前弧海盆は「蝦夷堆積盆」と総称される1).これまで蝦夷層群の砂岩モード組成2),3)や砕屑性ジルコン年代分布の報告4)から,その後背地は東アジア大陸縁であるとされてきた.しかし,蝦夷層群相当層を含めて,詳細な後背地を特定できていない.本発表では,蝦夷堆積盆の砂岩の砕屑性ジルコンU–Pb年代分布と東アジア火成岩分布図の比較から,この後背地を検討する.
地質概説
蝦夷層群は,黒色泥岩および砂岩を主体とし,下部より,シューパロ川層(Srs),日陰ノ沢層(Hgs),三笠層(Mks),羽幌川層(Hbs),および函淵層(Hks1,Hks2)からなる5).双葉層群は,基盤の阿武隈帯花崗岩を不整合に覆う.砂岩泥岩主体で,足沢層(Aos),笠松層,および玉山層(Tys)からなる6).那珂湊層群は,タービダイト主体層であり,平磯層および磯合層(Is8)からなる7).( )内は,今回使用した砂岩9試料の略号である.
手法
砂岩試料から分離した砕屑性ジルコンの同位体比をLA-ICPMSを用いて測定した.最も若いジルコン206Pb/238U年代と誤差2σが重なる年代群を最若クラスターとし,その加重平均年代値をYCとした.
結果
蝦夷層群,双葉層群,および那珂湊層群の砕屑性ジルコン年代分布を年代別帯グラフで表す(Fig. 1).
考察
本研究で扱った試料の後背地を,古いものから順に推定する.シュ―パロ川層,日陰ノ沢層および三笠層は,韓半島火成活動静穏期8)(158–138 Ma),230–210 Maおよび2400–1800 Maのジルコンを含む.これらと同年代の火成岩体は,南中国に広く分布する9).また,古地磁気学的研究10)は,蝦夷層群日陰ノ沢層および滝ノ沢層(三笠層相当層)が南方(北緯約10°N)で堆積しその後北上したことを示唆した.これは後背地解析の結果と調和的である.よって,Aptian~Cenomanian期の蝦夷層群の後背地は,南中国である蓋然性が高い.
双葉層群足沢層は,120–100 Maのジルコンが卓越することから,約120–90 Maの阿武隈帯の花崗岩11)が砕屑物の供給源であると解釈した.玉山層は96–83 Maのジルコンを含み,約90–80 Maの火成岩体は,西南日本内帯12)に広く分布する.
羽幌川層は,100–80 Maのジルコンを約95 %含み,白亜紀より古いジルコンをほとんど含まない.よって,後背地では白亜紀より古い火成岩体の露出が乏しく,後期白亜紀火成活動が活発であった.
函淵層下部は,250–203 Ma,310 Maおよび490 Maのジルコンを含み,函淵層上部は,ペルム紀を除く古生代ジルコンを約18%含む(Fig. 1).また,那珂湊層群は,210 Maや1800 Maのジルコンを含む.三畳紀,500–400 Maの火成岩体は,極東ロシアに広く分布する13).また,同層群は160–140 Maのジルコンを含まず,この年代の火成岩体は極東ロシアにも分布しない.よって,白亜紀末期の蝦夷層群および那珂湊層群の後背地は極東ロシアである蓋然性が高い.したがって,蝦夷堆積盆の後背地は南から北へと変化したと解釈される.
文献 1) Ando, 2003: J. Asian Earth Sci., 21, 921–; 2) Kiminami, 1986: J. Sediment. Soc. Japan, 4, 1–; 3) Takashima et al., 2001: J. Geol. Soc. Japan, 107, 359–; 4) Murakami et al.,2016: 2016JpGU: SGL37-P01; 5) Takashima et al., 2004: Cretaceous Res., 25, 365–; 6) Ando et al., 1995: J. Geol., 104, 284–; 7) Masukawa and Ando, 2018: Cretaceous Res, 91, 362–; 8) Lee et al., 2010: Isl. Arc, 19, 647–; 9) Wang et al., 2013: Gondwana. Res., 23, 1273–; 10) Tamaki and Itoh, 2008: Isl. Arc, 17, 270–; 11) Tsuchiya et al.,2013: J. Geol. Soc. Japan., 119, 154–; 12) Iida et al., 2015: Isl. Arc, 24, 205–; 13) Bi et al., 2014: J. Asian Earth Sci., 96, 301–.
北海道には,白亜系~古第三系蝦夷層群が狭長に分布し,東北日本太平洋側には上部白亜系双葉層群および那珂湊層群が点在する1).これら上記白亜系は,東アジア大陸東縁弧-海溝系の前弧海盆を埋積した堆積岩層とされ,この前弧海盆は「蝦夷堆積盆」と総称される1).これまで蝦夷層群の砂岩モード組成2),3)や砕屑性ジルコン年代分布の報告4)から,その後背地は東アジア大陸縁であるとされてきた.しかし,蝦夷層群相当層を含めて,詳細な後背地を特定できていない.本発表では,蝦夷堆積盆の砂岩の砕屑性ジルコンU–Pb年代分布と東アジア火成岩分布図の比較から,この後背地を検討する.
地質概説
蝦夷層群は,黒色泥岩および砂岩を主体とし,下部より,シューパロ川層(Srs),日陰ノ沢層(Hgs),三笠層(Mks),羽幌川層(Hbs),および函淵層(Hks1,Hks2)からなる5).双葉層群は,基盤の阿武隈帯花崗岩を不整合に覆う.砂岩泥岩主体で,足沢層(Aos),笠松層,および玉山層(Tys)からなる6).那珂湊層群は,タービダイト主体層であり,平磯層および磯合層(Is8)からなる7).( )内は,今回使用した砂岩9試料の略号である.
手法
砂岩試料から分離した砕屑性ジルコンの同位体比をLA-ICPMSを用いて測定した.最も若いジルコン206Pb/238U年代と誤差2σが重なる年代群を最若クラスターとし,その加重平均年代値をYCとした.
結果
蝦夷層群,双葉層群,および那珂湊層群の砕屑性ジルコン年代分布を年代別帯グラフで表す(Fig. 1).
考察
本研究で扱った試料の後背地を,古いものから順に推定する.シュ―パロ川層,日陰ノ沢層および三笠層は,韓半島火成活動静穏期8)(158–138 Ma),230–210 Maおよび2400–1800 Maのジルコンを含む.これらと同年代の火成岩体は,南中国に広く分布する9).また,古地磁気学的研究10)は,蝦夷層群日陰ノ沢層および滝ノ沢層(三笠層相当層)が南方(北緯約10°N)で堆積しその後北上したことを示唆した.これは後背地解析の結果と調和的である.よって,Aptian~Cenomanian期の蝦夷層群の後背地は,南中国である蓋然性が高い.
双葉層群足沢層は,120–100 Maのジルコンが卓越することから,約120–90 Maの阿武隈帯の花崗岩11)が砕屑物の供給源であると解釈した.玉山層は96–83 Maのジルコンを含み,約90–80 Maの火成岩体は,西南日本内帯12)に広く分布する.
羽幌川層は,100–80 Maのジルコンを約95 %含み,白亜紀より古いジルコンをほとんど含まない.よって,後背地では白亜紀より古い火成岩体の露出が乏しく,後期白亜紀火成活動が活発であった.
函淵層下部は,250–203 Ma,310 Maおよび490 Maのジルコンを含み,函淵層上部は,ペルム紀を除く古生代ジルコンを約18%含む(Fig. 1).また,那珂湊層群は,210 Maや1800 Maのジルコンを含む.三畳紀,500–400 Maの火成岩体は,極東ロシアに広く分布する13).また,同層群は160–140 Maのジルコンを含まず,この年代の火成岩体は極東ロシアにも分布しない.よって,白亜紀末期の蝦夷層群および那珂湊層群の後背地は極東ロシアである蓋然性が高い.したがって,蝦夷堆積盆の後背地は南から北へと変化したと解釈される.
文献 1) Ando, 2003: J. Asian Earth Sci., 21, 921–; 2) Kiminami, 1986: J. Sediment. Soc. Japan, 4, 1–; 3) Takashima et al., 2001: J. Geol. Soc. Japan, 107, 359–; 4) Murakami et al.,2016: 2016JpGU: SGL37-P01; 5) Takashima et al., 2004: Cretaceous Res., 25, 365–; 6) Ando et al., 1995: J. Geol., 104, 284–; 7) Masukawa and Ando, 2018: Cretaceous Res, 91, 362–; 8) Lee et al., 2010: Isl. Arc, 19, 647–; 9) Wang et al., 2013: Gondwana. Res., 23, 1273–; 10) Tamaki and Itoh, 2008: Isl. Arc, 17, 270–; 11) Tsuchiya et al.,2013: J. Geol. Soc. Japan., 119, 154–; 12) Iida et al., 2015: Isl. Arc, 24, 205–; 13) Bi et al., 2014: J. Asian Earth Sci., 96, 301–.