[SGL33-P07] 中部地方伊那谷西方における中新世中央構造線(MTL)の形成テクトニクス
キーワード:中新世テクトニクス、中央構造線、伊那谷、赤石山地、地質体の欠損
断層で接している地殻浅部の地質体AとBについて,Aに対してBが回転するテクトニクスを考える.回転軸は鉛直の場合と水平の場合が想定されるが,どちらの場合でも回転に伴って地質体AとBの境界部に地質体の重複や空隙が発生する.この仮想的な重複や空隙は,実際には,境界断層周辺部の地質体の移動や変形によって解消される.地質体Aを伊那谷地域の内帯,地質体Bを外帯の赤石山地と想定することは,これらの地域の地質やテクトニクスからみて,妥当である.すなわち,Figure Aは問題の地域の地質概略図であるが,内帯の中新世前~中期の守屋層や富草盆地の地層は緩傾斜の地層である.一方,赤石山地の中新世の和田層は急傾斜の地層である.赤石山地の地層は,中新世前期以降に顕著に傾き変形している.なお,傾動運動は回転軸がほぼ水平の回転運動とみなせる.
赤石山地の地質構造は,関東山地や紀伊山地にみられる緩傾斜の地質体の積層構造ではなく,複数の地質体が大規模にかつ複雑に変形している(Figure B).種々の地質体は「くの字の逆」の形に分布している[1].しかも赤石山地は近畿地方の内帯に対して反時計回りに大きく回転し(回転軸は鉛直),横ずれ運動も大規模である.これらの構造運動は日本海拡大期に生じた地質現象である.
美濃帯西端部や領家帯北西端部(伊那谷地域など)では,層理面などの面構造の走向は約N45°Eであり,大局的に見てほぼ一定である(Figure C).これらの地域では,鉛直軸を回転軸とした回転運動に関しては,どこでもほぼ同じであったと推定される.問題の地域の西端部に位置する岐阜県高山市東部の中新世安山岩岩脈群に関する古地磁気方位の研究によると,古地磁気方位は近畿地方内帯のデータとほぼ同じであり[2],日本海拡大期に近畿地方の内帯に対する反時計回りの回転運動を受けていない.
内帯の伊那谷地域と外帯の赤石山地に関する日本海拡大期のテクトニクスにおける上記のような相違を考慮すると,古第三紀のMTL近傍地域は,日本海拡大期には大規模な地質体の移動や変形や欠損が起きた変動帯であったと考えられる.しかし,この種の変動帯は現在ほとんど確認されていない.理論的想定と現実が乖離している.この矛盾は,想定された変動帯での主要なテクトニクスは地質体の横ずれ運動を伴う地表への上昇であり,変動帯の地質体は欠損してしまったと考えれば,解消する.
以上のような内帯の伊那谷地域と外帯の赤石山地の間における地質構造やテクトニクスの相違や不連続性を考慮すると,中部地方の現在のMTLは日本海拡大期に形成された新規の大断層であって,古第三紀のMTLが単純に回転したものではないと結論される.この中新世MTLの形成時期に現在の領家帯東端部もかなり顕著な欠損テクトニクスなどを被った可能性がある.次にその具体例を検討してみる.
長野県伊那市長谷市野瀬のMTL西方地域には,複数の狭長な地質体が南北方向に配列している.すなわち粟沢変成岩がMTL付近に分布し,その西方に微細な堆積組織や放散虫化石の痕跡が認められる泥質および珪質のマイロナイト(長谷ユニット起源のマイロナイト)を挟む花崗岩質マイロナイトが分布する.これら狭長な地質体は大規模な地質体の一部分であり,大部分の地質体は欠損してしまったと推定される[3,4].なお,粟沢変成岩は,伊那市長谷の粟沢集落付近におもに分布している三波川変成岩でもなく,鹿塩マイロナイトでもなく,マイクロブレッチアでもない変成岩である.マイクロブレッチアは粟沢変成岩が破砕されたものである.
[1] 松島,1997,飯田市美術博物館研究紀要,7,145.
[2] 星,2018,地質雑,v.124,No.10,p. 805.
[3] 小野,2016,日本地球惑星科学連合2016年大会予稿集,SGL37- P16.
[4] 小野,2018,日本地質学会第125年学術大会, R15-P-13.
赤石山地の地質構造は,関東山地や紀伊山地にみられる緩傾斜の地質体の積層構造ではなく,複数の地質体が大規模にかつ複雑に変形している(Figure B).種々の地質体は「くの字の逆」の形に分布している[1].しかも赤石山地は近畿地方の内帯に対して反時計回りに大きく回転し(回転軸は鉛直),横ずれ運動も大規模である.これらの構造運動は日本海拡大期に生じた地質現象である.
美濃帯西端部や領家帯北西端部(伊那谷地域など)では,層理面などの面構造の走向は約N45°Eであり,大局的に見てほぼ一定である(Figure C).これらの地域では,鉛直軸を回転軸とした回転運動に関しては,どこでもほぼ同じであったと推定される.問題の地域の西端部に位置する岐阜県高山市東部の中新世安山岩岩脈群に関する古地磁気方位の研究によると,古地磁気方位は近畿地方内帯のデータとほぼ同じであり[2],日本海拡大期に近畿地方の内帯に対する反時計回りの回転運動を受けていない.
内帯の伊那谷地域と外帯の赤石山地に関する日本海拡大期のテクトニクスにおける上記のような相違を考慮すると,古第三紀のMTL近傍地域は,日本海拡大期には大規模な地質体の移動や変形や欠損が起きた変動帯であったと考えられる.しかし,この種の変動帯は現在ほとんど確認されていない.理論的想定と現実が乖離している.この矛盾は,想定された変動帯での主要なテクトニクスは地質体の横ずれ運動を伴う地表への上昇であり,変動帯の地質体は欠損してしまったと考えれば,解消する.
以上のような内帯の伊那谷地域と外帯の赤石山地の間における地質構造やテクトニクスの相違や不連続性を考慮すると,中部地方の現在のMTLは日本海拡大期に形成された新規の大断層であって,古第三紀のMTLが単純に回転したものではないと結論される.この中新世MTLの形成時期に現在の領家帯東端部もかなり顕著な欠損テクトニクスなどを被った可能性がある.次にその具体例を検討してみる.
長野県伊那市長谷市野瀬のMTL西方地域には,複数の狭長な地質体が南北方向に配列している.すなわち粟沢変成岩がMTL付近に分布し,その西方に微細な堆積組織や放散虫化石の痕跡が認められる泥質および珪質のマイロナイト(長谷ユニット起源のマイロナイト)を挟む花崗岩質マイロナイトが分布する.これら狭長な地質体は大規模な地質体の一部分であり,大部分の地質体は欠損してしまったと推定される[3,4].なお,粟沢変成岩は,伊那市長谷の粟沢集落付近におもに分布している三波川変成岩でもなく,鹿塩マイロナイトでもなく,マイクロブレッチアでもない変成岩である.マイクロブレッチアは粟沢変成岩が破砕されたものである.
[1] 松島,1997,飯田市美術博物館研究紀要,7,145.
[2] 星,2018,地質雑,v.124,No.10,p. 805.
[3] 小野,2016,日本地球惑星科学連合2016年大会予稿集,SGL37- P16.
[4] 小野,2018,日本地質学会第125年学術大会, R15-P-13.