JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL34] 地球年代学・同位体地球科学

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

[SGL34-08] ジルコンU–Pb年代とLu–Hf同位体系からみた飛驒帯の起源

*長田 充弘1横山 立憲2鏡味 沙耶2大藤 茂3 (1.富山大学大学院理工学教育部、2.国立研究開発法人日本原子力研究開発機構、3.富山大学学術研究部都市デザイン学系)

キーワード:飛驒帯、ジルコン、U–Pb年代、Lu–Hf同位体比、中央アジア造山帯、北中国地塊

はじめに
 飛驒帯は中部日本北部に分布するペルム紀~三畳紀高温変成岩とペルム紀~ジュラ紀深成岩からなる地質帯である.飛驒帯の深成岩類は256–229 Maの飛驒古期花崗岩類と197–191 Maの飛驒新期花崗岩類に分けられる(Takahashi et al., 2018).東アジア周辺で上記のU–Pb年代(256–229 Ma,197–191 Ma)を示す花崗岩類は,韓半島南部周辺(北中国地塊)と中国東北部周辺(中央アジア造山帯:CAOB)に限られる.飛驒帯の起源や周辺の地質体の広域対比には,岩相や年代,変形・変成履歴に基づいて議論されている. U–Pb年代による議論に加え, ジルコンのLu–Hf同位体系に着目することで, マントルから地殻が分化した年代(Hfモデル年代)にまで制約することができる.本研究では,ジルコンを用いたU–PbとLu–Hf同位体系から飛驒帯の起源について考察した.

採取試料および手法
 測定試料は富山県富山市八尾地域の久婦須川と大長谷川(室牧川)沿いの飛驒帯花崗岩2試料である.ジルコンU-Pb年代とLu–Hf同位体比の測定は国立研究開発法人日本原子力研究開発機構東濃地科学センター土岐地球年代学研究所設置のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICPMS)を用いた.

測定結果
U–Pb年代:両試料から200–175 Maと290–230 Maの年代を得た.
Lu–Hf同位体比:U–Pb年代で200–175 Maを示したジルコンのHfモデル年代はca. 1330–1020 Maであった(εHf(t) = -1.9–3.0).一方, U–Pb年代で290–230 Maを示したモデル年代は780–600 Maであった(εHf(t) = 7.3–10.5).

εHf(t) = [ (176Hf/177Hf)t / (176Hf/177Hf) condrites-1]×104

考察
 ジルコンU–Pb年代測定より得られた結果から,富山県八尾地域の花崗岩はジュラ紀飛驒新期花崗岩類に相当する.この結果は山田ほか(2019)より得られた飛驒帯花崗岩類のジルコンU–Pb年代測定結果(190–180 Ma)と矛盾しない.ただし,外来ジルコンとして,ペルム紀―三畳紀の飛驒古期花崗岩類に相当する年代も確認される.これらがどのようにジュラ紀花崗岩に混入したのかは今後検討を要する.飛驒帯より得られたデータを年代とεHf(t)の図にまとめた(添付図).飛驒帯のデータはYang et al. (2006)がコンパイルした北中国地塊(Yanshan:添付図青の囲み内)の領域にはほとんどプロットされず,CAOB(East Xing-Meng:添付図赤の囲み内)にプロットされる(ジュラ紀:青,三畳紀ーペルム紀:オレンジ).さらに飛驒花崗岩類より得られたモデル年代(1330–1020 Ma)は韓半島のGyeonggiおよびOkcheon帯の花崗岩(187–172 Ma: Jo et al., 2018)のモデル年代(2400–1630 Ma: Jo et al., 2018)より有意に若く,寧ろCAOB東部(Khanka地塊などを含む)の花崗岩類(245–189 Ma: Yang et al., 2017)のモデル年代(1541–466 Ma: Yang et al., 2017)と整合的である.これらの事実は飛驒帯がCAOBに起源をもつことを支持する.しかしながら,飛驒帯深成岩類の一部からは古原生代以前のジルコンも報告されており,それらのジルコンの存在から北中国地塊が起源であるとする解釈されている(Horie et al., 2010;2018).今後,それらのHf同位体比の測定を試み,飛驒帯の起源についてさらに検討したい. 以上に示したように,今後ジルコンU–Pb年代測定のみならず, Hf同位体比測定も行うことによって,火成岩の起源推定や砕屑岩の後背地解析がより詳細に解析できるようになるであろう.

文献
Horie et al., 2018, Chemical Geology, 484, 148–167.
Horie et al., 2010, Precambrian Research, 183, 145–157.
Jo et al., 2018, Chemical Geology, 484, 136–147.
Takahashi et al., 2018, Island Arc, 27, e12220.
山田ほか,2019,日本地質学会第126年学術大会講演要旨,66.
Yang et al., 2017, International Geology Review, 60, 1038–1060.
Yang et al., 2006, Earth and Planetary Science Letters, 246, 336–352.