JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL34] 地球年代学・同位体地球科学

コンビーナ:田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、佐野 有司(東京大学大気海洋研究所海洋地球システム研究系)

[SGL34-P05] 鹿児島湾周辺のいくつかの第四紀テフラのジルコンU-Pb年代と層序

*伊藤 久敏1上澤 真平1七山 太2中里 裕臣3 (1.電力中央研究所、2.産業技術総合研究所、3.農業・食品産業技術総合研究機構)

キーワード:第四紀、テフラ、ジルコン、U-Pb年代測定、鹿児島

鹿児島湾周辺を給源とする第四紀の広域テフラのいくつかは房総半島の上総・下総層群中にも見出されるなど,わが国の第四紀の編年や大規模な火山災害を評価する上で重要であり,より詳細な年代学的検討を行うことの意義は大きい.今回,我々は,鹿児島湾奥の別府川支流山田川近傍の連続性の良い露頭(姶良市上名)から複数のテフラを記載し,そのいくつかからジルコンのU-Pb年代測定を実施した.また,これらのテフラと近傍のテフラとの関係を把握するために,鹿児島湾周辺のいくつかの代表的なテフラの年代測定も実施した.なお,以下に報告するテフラのジルコンU-Pb年代は,2017年から2019年までにデータを取得したものであるが,年代計算はSakata (2018)に従った.これまでの計算法(Ito, 2014)に比べ,Sakata (2018)では,50万年よりも若い試料でより古く計算される傾向がある.

山田川連続露頭では,下位から小宮路火砕流堆積物(pfl),小田pflⅠ,Ⅱと考えられるテフラが確認された.これらのテフラは約0.34 Maの加久藤pflに覆われることや産出する化石などから中期更新世に噴出したと考えられている(香川・大塚,2000).ジルコンのU-Pb年代として,小宮路pflから0.67±0.34 Ma (n=5, MSWD=2.8),小田pflⅠ,Ⅱからは3地点で,それぞれ,0.71±0.12 Ma (n=5, MSWD=0.86),0.61±0.11 Ma (n=8, MSWD=3.2),0.40±0.17 Ma (n=6, MSWD=3.6)の年代が得られた.山田川連続露頭に近接する,姶良市鍋倉で採取した鍋倉pflからは,0.57±0.09 Ma (n=9, MSWD=1.3)が得られた.また,姶良市加治木町辺川の辺川pflからは,0.48±0.14 Ma (n=8, MSWD=2.9)が得られた.さらに,これら全ての火砕流堆積物を覆うとされる加久藤pfl(採取地点:熊本県人吉市東漆田町)からは,0.65±0.12 Ma (n=12, MSWD=2.1)が得られた.

以上より,ここに掲げたテフラのうち,最も下位に位置し,ほぼ同時期の噴出とされる小宮路pfl,鍋倉pfl,辺川pflからはほぼ0.5~0.6 Maの年代が得られ,既存の層序とも整合する結果となった.ただし,これら火砕流と同時期もしくはより新しいとされる小田pflⅠ,Ⅱからは0.4~0.7 Maが,さらにこれらを覆うとされる加久藤pflからは約0.65 Maが得られ,層序から推定される年代よりも概ね古い年代が得られた.これは,ジルコンのU-Pb年代がマグマからジルコンが晶出した年代を示すため,もしくは,火砕流が定置するまでの過程で古い時代のジルコンを取り込んだためと思われる.今後,個々のジルコンの形態・組成分析等によりこれらのテフラを噴出したマグマの違い等についても検討を進める予定である.



文献: Ito, 2014, J. Volcanol. Geotherm. Res., 289, 210–223; 香川・大塚,2000,地質雑,106,762–782; Sakata, 2018, Geochem. J. 52, 281–286.