[SIT26-06] Tungsten isotopic compositions of Ethiopian and Aden Bay basalts and the Samoan ocean island: implications for core-mantle interaction in their source
キーワード:核-マントル相互作用、タングステン同位体、エチオピア玄武岩、サモア玄武岩、ハフニウムータングステン壊変系、ヘリウム同位体
はじめに
182Hfは890万年という短い半減期で182Wにベータ壊変する。親であるHfが親石元素でマントルに残りやすく,他方,娘核種のWは核に入りやすいために,地球のごく初期に核が分離すれば,182Hfと182Wの間で分別が起きる。その結果,Hf/W比の高いケイ酸塩マントルでは地球の初期には現在のマントルより182W/184Wが高く,その後レイトベニアによって182W/184Wの低い隕石質の物質が降り注いでマントルに徐々に浸透したために,現在のマントルの182W/184Wまで値が下がったと考えられる。実際のところ,38億年前マフィック岩や27億年前のコマチアイトには現在のマントルに比べて高い182W/184W(正異常)が報告されている。一方,Hf/W比が低いことが想定される核の182W/184Wは現在のマントルより非常に低いことが予測され,核-マントル境界を起源とする海洋島玄武岩およびマントルプルームによる巨大火成岩体(Large Igneous Province)には核の物質が混入して,182W/184Wが低い可能性がある。現世のハワイ・ロイヒ島やサモアなどの海洋島玄武岩には負異常が報告されている(Mundl et al., 2017など)。
本研究では,エチオピアのアファープルームによる玄武岩,サモア玄武岩など,深部地球起源と考えられている岩石について超高精度W同位体のデータを得たので,これを報告し,核-マントル相互作用について考察する。ここで182W/184Wの変動は非常に小さいため,現在のWスタンダード(現在のマントルの値)からの差分を百万分率μ182W(ppm)で表す。
分析方法
地球の岩石に見られるμ182W(ppm)の変動はたかだか数十ppmであるため,超高精度でW同位体比を得る必要がある。本研究では,妨害元素を除去し,数ppmの高精度でW同位体比を得る方法を開発した(Takamasa et al., 投稿中)。この分析手法では,対象岩石の分解溶液からメチルイソブチルケトンによる溶媒抽出,陽イオン,陰イオン交換樹脂を用いてWを分離する。得られた試料溶液を,脱溶媒ネブライザーを備えた多検出器型ICP-MSに導入し,W同位体比を測定した。
結果と考察
標準岩石JB-2を分析したところ,μ182W = -2.1 ± 9.1(2SD)と現在のマントルの値を得た。また,Mundl et al., (2017)は,ロイヒ島とサモア島のμ182Wと3He/3He比に負の相関があり,現在の上部マントルとは逆の方向の延長線上に核が存在することを示唆した。本研究では,ハワイ・ロイヒ火山の海底から玄武岩を得てW同位体を分析し,μ182W = -15 ± 5.9 (2SD) という負の値を得た。この試料は3He/4He = 35Raと高い値を示しており(Matsumoto et al., 2008), Mundl et al. (2017)が報告したWとHe同位体比の相関の線に乗っている。以上の結果から,本研究で開発した分析手法の信頼性が示された。
この分析手法を用いて,サモアの玄武岩を分析したところ,Mundl et al. (2017)同様の顕著なμ182Wの負異常を示した。Mundl et al. (2017)は,サモアの玄武岩はハワイの玄武岩と同じμ182Wと3He/3Heの相関直線に乗っているとしているが,本研究で得られた相関はハワイの同位体比の相関とは傾きが異なる。ソースの同位体組成が異なるか,WとHeの分別が起きていると考えられる。サモアの最下部マントルには地震波の超低速度層(Ultra low velocity zone: ULVZ)があることがわかっており(Tanaka, 2002),ULVZが核の物質がマントルに抽出される場となっている可能性がある。実際のところ,Yoshino et al. (2019)では,高温高圧実験下での拡散実験によってWは拡散によって核からマントルに移動しうることを示した。また,下部マントルに散乱があることもわかっている(Kaneshima, 2018)。これらの結果は核の物質が地表まで上昇していることを示唆している。
一方,アファープルームを起源とするエチオピアの玄武岩とアデン湾の海嶺玄武岩のμ182Wは小さな負異常を示していることを本研究で初めて見出した。これは,ハワイやサモア同様,アファープルームの最下部マントルでは核-マントル相互作用が起きており,核の物質がアファープルームの起源となっている最下部マントルに含まれていることを示唆している。今後核直上の地震波反射構造の観察が期待される。
182Hfは890万年という短い半減期で182Wにベータ壊変する。親であるHfが親石元素でマントルに残りやすく,他方,娘核種のWは核に入りやすいために,地球のごく初期に核が分離すれば,182Hfと182Wの間で分別が起きる。その結果,Hf/W比の高いケイ酸塩マントルでは地球の初期には現在のマントルより182W/184Wが高く,その後レイトベニアによって182W/184Wの低い隕石質の物質が降り注いでマントルに徐々に浸透したために,現在のマントルの182W/184Wまで値が下がったと考えられる。実際のところ,38億年前マフィック岩や27億年前のコマチアイトには現在のマントルに比べて高い182W/184W(正異常)が報告されている。一方,Hf/W比が低いことが想定される核の182W/184Wは現在のマントルより非常に低いことが予測され,核-マントル境界を起源とする海洋島玄武岩およびマントルプルームによる巨大火成岩体(Large Igneous Province)には核の物質が混入して,182W/184Wが低い可能性がある。現世のハワイ・ロイヒ島やサモアなどの海洋島玄武岩には負異常が報告されている(Mundl et al., 2017など)。
本研究では,エチオピアのアファープルームによる玄武岩,サモア玄武岩など,深部地球起源と考えられている岩石について超高精度W同位体のデータを得たので,これを報告し,核-マントル相互作用について考察する。ここで182W/184Wの変動は非常に小さいため,現在のWスタンダード(現在のマントルの値)からの差分を百万分率μ182W(ppm)で表す。
分析方法
地球の岩石に見られるμ182W(ppm)の変動はたかだか数十ppmであるため,超高精度でW同位体比を得る必要がある。本研究では,妨害元素を除去し,数ppmの高精度でW同位体比を得る方法を開発した(Takamasa et al., 投稿中)。この分析手法では,対象岩石の分解溶液からメチルイソブチルケトンによる溶媒抽出,陽イオン,陰イオン交換樹脂を用いてWを分離する。得られた試料溶液を,脱溶媒ネブライザーを備えた多検出器型ICP-MSに導入し,W同位体比を測定した。
結果と考察
標準岩石JB-2を分析したところ,μ182W = -2.1 ± 9.1(2SD)と現在のマントルの値を得た。また,Mundl et al., (2017)は,ロイヒ島とサモア島のμ182Wと3He/3He比に負の相関があり,現在の上部マントルとは逆の方向の延長線上に核が存在することを示唆した。本研究では,ハワイ・ロイヒ火山の海底から玄武岩を得てW同位体を分析し,μ182W = -15 ± 5.9 (2SD) という負の値を得た。この試料は3He/4He = 35Raと高い値を示しており(Matsumoto et al., 2008), Mundl et al. (2017)が報告したWとHe同位体比の相関の線に乗っている。以上の結果から,本研究で開発した分析手法の信頼性が示された。
この分析手法を用いて,サモアの玄武岩を分析したところ,Mundl et al. (2017)同様の顕著なμ182Wの負異常を示した。Mundl et al. (2017)は,サモアの玄武岩はハワイの玄武岩と同じμ182Wと3He/3Heの相関直線に乗っているとしているが,本研究で得られた相関はハワイの同位体比の相関とは傾きが異なる。ソースの同位体組成が異なるか,WとHeの分別が起きていると考えられる。サモアの最下部マントルには地震波の超低速度層(Ultra low velocity zone: ULVZ)があることがわかっており(Tanaka, 2002),ULVZが核の物質がマントルに抽出される場となっている可能性がある。実際のところ,Yoshino et al. (2019)では,高温高圧実験下での拡散実験によってWは拡散によって核からマントルに移動しうることを示した。また,下部マントルに散乱があることもわかっている(Kaneshima, 2018)。これらの結果は核の物質が地表まで上昇していることを示唆している。
一方,アファープルームを起源とするエチオピアの玄武岩とアデン湾の海嶺玄武岩のμ182Wは小さな負異常を示していることを本研究で初めて見出した。これは,ハワイやサモア同様,アファープルームの最下部マントルでは核-マントル相互作用が起きており,核の物質がアファープルームの起源となっている最下部マントルに含まれていることを示唆している。今後核直上の地震波反射構造の観察が期待される。