JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP36] 鉱物の物理化学

コンビーナ:鎌田 誠司(東北大学学際科学フロンティア研究所)、鹿山 雅裕(東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻広域システム科学系)

[SMP36-04] 熱水環境下における硫化鉄ナノ粒子の構造変化プロセス

佐野 喜成1、*興野 純1米田 安宏2高木 壮大1山本 弦一郎1 (1.筑波大学生命環境系地球進化科学専攻、2.日本原子力研究開発機構)

キーワード:硫化鉄ナノ粒子、マッキナワイト、グレイガイト、黄鉄鉱、元素硫黄

冥王代の海底熱水孔では,マッキナワイト (FeS),グレイガイト (Fe3S4),黄鉄鉱 (FeS2) などの硫化鉄鉱物が生体有機分子の合成に寄与した可能性が指摘されている (表面代謝説:Wächtershäuser, 1988).そのため,これまでに硫化鉄鉱物の形成プロセスに関する研究が盛んに行われてきた.Schoonen and Barnes. (1991) によると,溶液中でFe2+とHS-が反応すると最初に硫化鉄ナノ粒子であるマッキナワイトが形成され,それらが元素硫黄 (S0) と反応することで最終的に最も安定な黄鉄鉱が形成される.また,僅かに酸化的な環境下ではグレイガイトが形成される (Schoonen and Barnes, 1991; Hunger and Benning, 2007).しかしながら,ナノ結晶マッキナワイトがどのように黄鉄鉱やグレイガイトに相変化するのか,その構造変化プロセスとメカニズムは未解明である.そこで本研究では,熱水環境下におけるナノ結晶マッキナワイトの構造変化プロセスを明らかにすることを目的に実験を行った.
 まず,N2ガス雰囲気下でFe2+溶液とHS-溶液を混合することでナノ結晶マッキナワイトの懸濁液を合成した.続いて,得られた懸濁液を元素硫黄の存在下および非存在下に分けて120℃で一定時間加熱した.さらに,懸濁液を元素硫黄の非存在下において140oCで加熱する熱水実験も行った.各加熱時間で取り出した固相は放射光粉末X線回折 (XRD) 測定,放射光X線全散乱測定,X線吸収微細構造 (XAFS) 測定,透過型電子顕微鏡 (TEM) により分析し,鉱物相の同定や結晶構造解析を行った.
 XRD測定の結果,元素硫黄を加えていない120oCの熱水環境下ではナノ結晶マッキナワイトは12時間後まで安定的に存在した.また,原子二体相関関数 (PDF) 解析の結果,ナノ結晶マッキナワイトはマッキナワイトと同様の中距離原子秩序を有しているが,Feサイトに約20%の割合で原子欠陥が生じていることが示された.さらに,X線吸収端近傍構造 (XANES) からは,ナノ結晶マッキナワイトが僅かなFe3+を含むことが示された.したがって,FeS4四面体サイトの欠陥による電荷の不足を補うために,Fe2+が一部Fe3+に酸化されたと考えられる.TEM観察の結果,120℃の加熱によって粒子サイズが2~3倍に成長することが示された.一方で,元素硫黄を加えた120oC熱水環境下では12時間後にナノ結晶マッキナワイトの大部分が黄鉄鉱に変化すると共に,グレイガイトも僅かに形成された.XANES解析では,グレイガイトの形成に伴ってFe3+/ΣFeの割合が増加し,黄鉄鉱の形成に伴ってFe3+/ΣFeの割合が減少した.したがって,元素硫黄が酸化剤及び還元剤として作用することで,ナノ結晶マッキナワイトからグレイガイト,黄鉄鉱への相変化が引き起こされたと考えられる.動径構造関数 (RSF) は,黄鉄鉱形成に伴う配位数の増加とS-S結合の形成を示した.元素硫黄を加えていない140oCの熱水環境下では,4時間後にナノ結晶マッキナワイトの大部分がグレイガイトに変化した.グレイガイトの形成に伴ってFe3+/ΣFeの割合が60%まで増加した.また,RSFはグレイガイトの形成に伴うFeS4四面体の縮小を反映した.
 本研究の結果から,熱水環境下でのナノ結晶マッキナワイトから黄鉄鉱の形成には酸化剤及び還元剤としての元素硫黄の供給が必要であることが明らかになった.