JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP37] Supercontinents and crustal evolution

コンビーナ:Madhusoodhan Satish-Kumar(Department of Geology, Faculty of Science, Niigata University)、Krishnan Sajeev(Centre for Earth Sciences, Indian Institute of Science)、外田 智千(国立極地研究所)、小山内 康人(九州大学大学院比較社会文化研究院地球変動講座)

[SMP37-P08] 長野県大鹿村のカンラン岩の蛇紋岩化作用と自然鉄

*武田 侑也1上原 誠一郎2 (1.九州大学大学院理学府地球惑星科学専攻、2.九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門)

キーワード:蛇紋岩化作用、自然鉄

蛇紋岩はカンラン岩の熱水反応によって形成される岩石で,この反応を蛇紋岩化作用という。蛇紋岩化作用ではカンラン石から蛇紋石とブルース石が生成されるが天然のカンラン石には鉄を含むため反応が複雑になる。この時カンラン石中の2価鉄から磁鉄鉱を生成するため2価鉄の一部が3価鉄になる。そのときに水素が発生し,より還元的な環境が形成され,自然鉄,アワルワ鉱(Ni₂Fe-Ni₃Fe)などが形成される場合がある (Frost, 1985)。
 長野県下伊那郡大鹿村のカンラン岩体はいくつか存在するが,入沢井と大河原にある岩体のカンラン岩中の蛇紋石脈に日本で初めて蛇紋岩化作用で生じる自然鉄が発見・報告され(岡本ら, 1981; Sakai & Kuroda , 1983),蛇紋石脈はその前後関係から3段階あり,自然鉄は蛇紋石脈の2段階目のクリノクリソタイルとブルース石からなる脈に見られるとされた。本研究では自然鉄及びアワルワ鉱の生成の解明を目的とし,この特異な蛇紋石脈の再検討を行った。
 長野県下伊那郡大鹿村の入沢井と大河原のカンラン岩体を野外調査・試料採集の後,ダナイト,ウェールライト,蛇紋岩の肉眼観察及び偏光・反射顕微鏡観察,X線回折装置(XRD)による構成鉱物の同定(リガクUltima IV,リガクRINT RAPIDⅡ),組織観察と化学分析を走査型電子顕微鏡(SEM)と電子線マイクロアナライザ(EPMA),透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた(SEM-EDS, 日本電子 JSM-7001F,FE-EPMA, JMS-8530FF)。TEM 観察は九州大学超顕微研究センターのJEOL製 JEM-3200FSKで行った。
 カンラン岩は主にカンラン石,クロム鉄鉱で構成され,その中に幅数 ㎝~数10 ㎛の直線的な蛇紋石脈がある。脈は最大4方向あり,試料によっては2,3方向のものもある。薄片による観察により脈の前後関係から蛇紋石化を4段階とした。これらの4段階の脈を形成時期の早い脈から蛇紋石脈Ⅰ, Ⅱ,Ⅲ,Ⅳとした。蛇紋石脈は主にリザーダイト,クリソタイル,ブルース石,磁鉄鉱,自然鉄,アワルワ鉱で構成され,蛇紋石種はクリソタイルのみ,リザーダイトのみ,2種類が混在しているものがあった。蛇紋石脈Ⅱは蛇紋石とブルース石は複雑に混在している。金属鉱物としてはアワルワ鉱と磁鉄鉱が見られるが,アワルワ鉱は微小な粒が脈全体に分布し,一部に脈に沿って入っている様子も見られる。蛇紋石脈Ⅲには脈の中心にブルース石に富む部分がある。自然鉄は楕円形をしていて,脈に沿って楕円の長軸が脈に対して垂直になるように並んでいるのが見られ,一部が磁鉄鉱に変化しているものもある。アワルワ鉱は微小な結晶で脈の縁や中心にならんでいるのが観察された。蛇紋石脈Ⅳは脈の中に楕円状や脈状にブルース石に富む部分が見られる。自然鉄は不規則な形をしているものが多く,磁鉄鉱に変化しているものもある。アワルワ鉱は微小な結晶で,脈中に偏在している。脈中の蛇紋石とブルース石の化学組成をSEM-EDSで測定し,#Mg = Mg/(Mg+Fe)を求めた結果,蛇紋石脈Ⅰ,Ⅱの蛇紋石は#Mg=0.94ブルース石は#Mg=0.66~0.79であり,蛇紋石脈Ⅲ,Ⅳの蛇紋石は#Mg=0.96,ブルース石は#Mg=0.77~0.86であった。蛇紋石脈Ⅰ~Ⅳの特徴を表1に示す。
 自然鉄は主に蛇紋石脈Ⅲ,Ⅳに見られ,大きさは1 ㎛~100 ㎛であり,最大3.2 %のNiと3.1 %のCoを含む。蛇紋石脈Ⅲの自然鉄は蛇紋石脈に対して楕円の長軸が垂直方向になる位置に並び,蛇紋石脈Ⅳの自然鉄は不規則な形をしていた。また,カンラン岩には直線的な脈の他にカンラン石の亀裂や粒界に直線的ではない蛇紋石脈もあり,このような脈にも自然鉄が見られた。アワルワ鉱は全ての蛇紋石脈に見られ,大きいものでは10㎛程度のものもあるが,ほとんどは50 ㎚~数100 ㎚で,その多くが自形結晶をしている。アワルワ鉱の組成はNi0.79Fe~Ni2.55Feであり,鉄に富むものが多い。