JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP38] 変形岩・変成岩とテクトニクス

コンビーナ:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、針金 由美子(産業技術総合研究所)

[SMP38-01] カンラン石多結晶体の純粋せん断変形実験:拡散クリープ下での粒子形と結晶軸選択配向の関係

*安藤 照浩1平賀 岳彦1谷部 功将1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:カンラン石、拡散クリープ、粒子形状、結晶軸選択配向、純粋せん断

従来、CPOは転位クリープ下のみで形成すると考えられてきたが、近年、拡散クリープ下でのCPO形成が報告され、またそのメカニズムが明らかになっている。特定の結晶学的な面に平行な粒界(低指数面粒界)で優先的に粒界すべりが生じ、粒子が回転することで低指数面粒界がある方向に並び、CPOが形成される。先行研究では、一軸圧縮および一軸引張の変形実験から粒界すべり面とすべり方向を決定し、それらを組み合わせることでせん断変形下でのCPOパターンを推定している。しかし、拡散クリープ下でのCPOパターン及び、それに基づく上部マントルの地震波速度異方性の議論は定性的な域に留まっているのが現状である。本研究では、カンラン石多結晶体を拡散クリープ下で純粋せん断変形させ、その変形試料の微細構造解析を行うことで、3次元的な粒子形を明らかにし、その形を説明する粒界構造とCPOパターンの関係を調べた。
 高温下での純粋せん断変形実験を行うためにカーボン製の治具を準備し、治具内部において、Z軸方向が長軸方向の正四角柱試料がZ軸方向から圧縮され、Y軸方向の変形がゼロの中で、X軸方向にのみ変形を許すようにした。変形試験機に設置された高温炉内に試料を入れた治具をセットし、真空下にて6つの異なる温度条件(1240℃、1250℃、1260℃、1270℃、1320℃、1350℃)で変形実験を行った。実験後、試料を回収して走査型電子顕微鏡を用いてその微細構造を解析した。高温試料(1350℃、1320℃)内ではカンラン石結晶の[100]がX軸方向に集中し、[010]がZ軸方向に集中していることを見出した(AタイプのCPOパターン)。中温試料(1270℃、1260℃)内では[010]がZ軸方向に集中し、[100]と[001]がXY面内でのガードル分布となっていた(AGタイプのCPOパターン)。低温試料(1250℃、1240℃)においては、結晶軸はランダムな分布もしくは非常に弱いが[001]がZ軸方向に、[100]がX軸方向に集中していた。これらの試料を3方向(試料のXY面、YZ面、XZ面)から観察することにより、3次元的な粒子形状の推定を行った。その結果、カンラン石粒子は温度と共に系統的に変化することを見出した。高温域ではX軸方向に伸びた偏長形態(prolateタイプ)、中温域はX、Y方向にほぼ等方的に伸びた偏平形態(oblateタイプ)、低温試料では試料全体の歪と弱く相関するような、Z軸方向に潰れ、X軸方向に弱く伸びた純粋せん断型の形状の粒子が観察できた。それぞれの粒子形タイプから中温~高温域では(010)面に平行な粒界が低指数面粒界として発達し、高温域では[100]方向に伸長、中温域では[100]と[001]方向に等方的に伸長し、低温域では低指数面粒界は発達しなかったと推定した。この粒界構造から決定される粒界すべり面(低指数面粒界)内で曲率の小さい方向に選択的に粒界すべりを起こすことで粒子回転が生じた結果、高温域ではAタイプ、中温域ではAGタイプ、低温域ではランダムと系統的に変化するCPOが形成されたと結論づけた。
 マントル内でのカンラン岩の融点で規格化した温度プロファイルを用いることで、拡散クリープで流動する海洋上部マントル内でのカンラン石CPOパターンの深度分布は浅部においてAタイプ、中深部でAGタイプ、深部でランダムになると推定した。