[SMP38-08] 肥後変成岩中の縞状大理岩とシュードタキライト様断層破砕岩:深発地震の証拠か?
キーワード:シュードタキライト、深発地震、水の浸透
われわれは,2019年地球惑星科学連合大会において,肥後変成岩の大理岩中から超高圧シュードタキライトの産出を報告した.この発見は,超高圧シュードタキライトの存在が,沈み込む地殻物質中で深発地震が起こりうることを示している点で重要である.この超高圧シュードタキライトの野外での分布を調査する過程で,われわれは新たに同じ大理岩層(厚さ20m)中から,特異な縞状大理岩とシュードタキライト様断層破砕岩を見出した.これらの岩石は,先に記載した超高圧シュードタキライトとの類似性を示すので,ここに詳細に記載し,その成因が断層運動に伴う摩擦融解によるものか,それとも水の浸透による融解であるのかを議論する.
縞状大理岩の岩石記載
縞状大理岩は,泥質片麻岩との境界部付近の塊状大理岩中に産し,白色のものと黒色のものの2つのタイプが存在する.両タイプとも,方解石+石英+珪灰石+透輝石+チタン石の鉱物組合わせを有し,2次鉱物としてダトー石とブドウ石を含む.黒色縞状大理岩にのみ,石墨が透輝石中の包有物として,あるいは独立した板状結晶として含まれる.珪灰石は方解石に取り囲まれた分解組織を示し,方解石は石英と直接に接している.縞状構造は,方解石,石英,透輝石のそれぞれに富む薄層の互層より構成されている.黒色縞状大理岩の薄層においては破砕されたチタン石や透輝石が,石英と方解石の基質中に散在する組織が観察され,流体またはメルトによる水圧破砕が示唆される(流体またはメルトが浸透し,これらの鉱物を破砕した後,方解石と石英を沈殿させた).
シュードタキライト様断層岩の岩石記載
本岩は塊状大理岩中の断層に沿って発達する.黒色基質中に丸みを帯びた大理岩粒子が散在する組織を示し,鏡下ではネットワーク状石英脈が方解石中に発達し,その一部は微褶曲を示す.石英は不規則な外形で,方解石の微細な粒子を包有することがある.また,石英,方解石とAl-Si粘土鉱物ならびに少量のカリ長石からなる,特異な脈が発達する.この脈はわれわれが超高圧シュードタキライトとして記載したものに見られる珪酸塩ドメイン(石英+ Al-Si粘土鉱物+ドロマイト)と酷似している.Al-Si粘土鉱物はカリ長石の分解生成物であり,珪酸塩ドメインとの違いはこの脈中に産する炭酸塩鉱物がドロマイトではなく,方解石である点である.
議論
縞状大理岩に見られる水圧破砕組織は,方解石と石英を沈殿させたメルトによる可能性がある.断層岩中の特異な脈は,超高圧シュードタキライト中の珪酸塩ドメインに酷似しており,この岩石が融解した可能性を示唆する.石英とカリ長石成分は,外系(周囲の泥質片麻岩)から断層破砕帯に輸送されたと推定される.CaO-SiO2-CO2系では,方解石と石英の融解は,1300oC以上の温度,1.8 GPa以上の圧力で生じる(Huang, et al., 1980).これらの温度圧力よりも低温低圧では,石英と方解石は反応して珪灰石を形成する.この系に水が加わると,融解温度はかなり減少することが予想されるが,実験的には解明されていない.そこで問題は,これらの岩石の融解が,断層運動に伴う摩擦融解によるものか,断層に沿う水の浸透による融点降下によるものなのか,ということである.いずれにしても石英成分は断層に沿って輸送されてくることを前提としている.珪灰石の安定領域は水の浸透によって増大するが,縞状大理岩で観察される珪灰石の分解組織はこれと矛盾し,低圧化での水の浸透を否定する.もし水の浸透があったとすれば,それは珪灰石の安定領域よりも高圧側であり,融解を引き起こしたと考えられる.摩擦融解の場合も1.8 GPa以上の高圧下で起こったと考えられる.どちらであるか今のところ判断できないが,いずれの場合も,これらの岩石の融解は高圧下での断層運動に伴うものと結論され,沈みこみ帯の深部の地殻物質中で深発地震が発生していることを強く示唆している.
参考文献
Huang, W.L., Wyllie, P.J. and Nehru, C.E. (1980) Am. Mineral.,65, 285-301.
縞状大理岩の岩石記載
縞状大理岩は,泥質片麻岩との境界部付近の塊状大理岩中に産し,白色のものと黒色のものの2つのタイプが存在する.両タイプとも,方解石+石英+珪灰石+透輝石+チタン石の鉱物組合わせを有し,2次鉱物としてダトー石とブドウ石を含む.黒色縞状大理岩にのみ,石墨が透輝石中の包有物として,あるいは独立した板状結晶として含まれる.珪灰石は方解石に取り囲まれた分解組織を示し,方解石は石英と直接に接している.縞状構造は,方解石,石英,透輝石のそれぞれに富む薄層の互層より構成されている.黒色縞状大理岩の薄層においては破砕されたチタン石や透輝石が,石英と方解石の基質中に散在する組織が観察され,流体またはメルトによる水圧破砕が示唆される(流体またはメルトが浸透し,これらの鉱物を破砕した後,方解石と石英を沈殿させた).
シュードタキライト様断層岩の岩石記載
本岩は塊状大理岩中の断層に沿って発達する.黒色基質中に丸みを帯びた大理岩粒子が散在する組織を示し,鏡下ではネットワーク状石英脈が方解石中に発達し,その一部は微褶曲を示す.石英は不規則な外形で,方解石の微細な粒子を包有することがある.また,石英,方解石とAl-Si粘土鉱物ならびに少量のカリ長石からなる,特異な脈が発達する.この脈はわれわれが超高圧シュードタキライトとして記載したものに見られる珪酸塩ドメイン(石英+ Al-Si粘土鉱物+ドロマイト)と酷似している.Al-Si粘土鉱物はカリ長石の分解生成物であり,珪酸塩ドメインとの違いはこの脈中に産する炭酸塩鉱物がドロマイトではなく,方解石である点である.
議論
縞状大理岩に見られる水圧破砕組織は,方解石と石英を沈殿させたメルトによる可能性がある.断層岩中の特異な脈は,超高圧シュードタキライト中の珪酸塩ドメインに酷似しており,この岩石が融解した可能性を示唆する.石英とカリ長石成分は,外系(周囲の泥質片麻岩)から断層破砕帯に輸送されたと推定される.CaO-SiO2-CO2系では,方解石と石英の融解は,1300oC以上の温度,1.8 GPa以上の圧力で生じる(Huang, et al., 1980).これらの温度圧力よりも低温低圧では,石英と方解石は反応して珪灰石を形成する.この系に水が加わると,融解温度はかなり減少することが予想されるが,実験的には解明されていない.そこで問題は,これらの岩石の融解が,断層運動に伴う摩擦融解によるものか,断層に沿う水の浸透による融点降下によるものなのか,ということである.いずれにしても石英成分は断層に沿って輸送されてくることを前提としている.珪灰石の安定領域は水の浸透によって増大するが,縞状大理岩で観察される珪灰石の分解組織はこれと矛盾し,低圧化での水の浸透を否定する.もし水の浸透があったとすれば,それは珪灰石の安定領域よりも高圧側であり,融解を引き起こしたと考えられる.摩擦融解の場合も1.8 GPa以上の高圧下で起こったと考えられる.どちらであるか今のところ判断できないが,いずれの場合も,これらの岩石の融解は高圧下での断層運動に伴うものと結論され,沈みこみ帯の深部の地殻物質中で深発地震が発生していることを強く示唆している.
参考文献
Huang, W.L., Wyllie, P.J. and Nehru, C.E. (1980) Am. Mineral.,65, 285-301.