JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] ポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP38] 変形岩・変成岩とテクトニクス

コンビーナ:中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、針金 由美子(産業技術総合研究所)

[SMP38-P18] 神居古潭変成岩 蛇紋岩メランジュ中の角閃岩構造岩塊の温度圧力履歴の解明

*木村 優斗1竹下 徹1 (1.北海道大学大学院理学院自然史科学専攻)

キーワード:蛇紋岩メランジュ、変成温度圧力履歴、構造岩塊

蛇紋岩メランジュは蛇紋岩中にかつて沈み込み帯に沈み込んだ海洋地殻や堆積物の変成作用を受けた断片が取り込まれたものが地表へと上昇してきたものである。蛇紋岩メランジュ中に含まれるテクトニックブロックはその沈み込み帯内部の様々な温度圧力条件を経験している。北海道の中央を縦断するように分布する神居古潭変成帯の蛇紋岩メランジュ中には多様な種類のテクトニックブロックが含まれる。これまでに柘榴石緑簾石角閃岩はIshizuka and Imaizumi(1983)によって柘榴石,角閃石の組成累帯構造の組成に基づいて、初期の中圧型の昇温変成作用、その後に低温高圧の条件へと続く後退期変成作用が見積もられている。しかし、Okamoto(2016)および安藤 (2018)は同地域には多様な角閃岩を構成する鉱物の組成累帯構造に多様性があることが明らかになった。本発表は神居古潭変成帯に産出する角閃岩ブロックの温度圧力履歴から見積もられるテクトニクスと沈み込み帯内部の温度構造の発展について得られた新しい知見について述べる。対象地である大ヌップ川は旭川市から北西約30kmの位置にある。当地域では様々なタイプの角閃岩ブロックが見られる。本発表では異なるテクトニックブロックから採取された試料と鉱物組み合わせは柘榴石緑簾石角閃岩でGrt+Ep+Ca-Amp+Na-Amp+Ttn+Rt±Chl±Ms±Op、緑簾石角閃岩はEp+Ca-Amp+Na-Amp+Ttn±Rt±Chl+Ms+Qtz±Op、緑泥石に富む緑簾石角閃岩はEp+Ca-Amp+Ttn+Chl+Ms+Qtz±Opである試料をそれぞれ用いた。いずれの試料も苦鉄質の岩石を原岩とするものであると考えられる。それぞれの試料に含まれる変成鉱物の組成累帯構造、さらにTHERIAK-DOMINO de Capitani and Petrakakis(2010)を用いて柘榴石緑簾石角閃岩の変成条件を推測した。その結果、柘榴石はコアからリムにかけてMnが減少する温度上昇の過程を記録している。シュードセクションより最高変成度で、T=650℃∼,P=9.5kbarが推定された。緑簾石のピスタサイト成分(Ps=Fe3+/(Fe3++Al)×100)は全体でマトリクスを構成するものはコアからリムにかけてPs=9.5からPs=∼30 へと変化し、温度低下の記録を示し、特に柘榴石緑簾石角閃岩ではほかのタイプの岩石より温度低下した記録を示す。角閃石はすべての試料でコアからリムにかけて後退期変成作用を記録している。特に柘榴石緑簾石角閃岩と緑簾石角閃岩では普通角閃石~バロア閃石質の角閃石の縁に成長したNa角閃石の部分でNa(B)は~0.5p.f.uから1.5-2p.f.uほど急激に増加する一方で、Alが1.8-1p.f.uから.5-0.1p.f.uへの減少が確認された。この後退期変成作用は二つのステージに分けることができ、最初に(B)Naの値は0.55p.f.uからほぼ変化せず、Alの値が1.9p.f.uから1.0-1.5p.f.uへと徐々に減少する後退期の履歴と、その後のAlの急激な1.0-1.5p.f.uから0.5-0.0p.f.uへの減少と(B)Naの0.4-0.6p.f.uから1.4-1.8p.f.uへの急激な増加によってNa角閃石が成長する後退期が示される。柘榴石緑簾石角閃岩と緑簾石角閃岩は両方の後退期のステージを記録していた。大ヌップ川の角閃岩ブロックの鉱物の組成から求められた温度圧力履歴からのテクトニクス像は(1)柘榴石緑簾石角閃岩の原岩が最初に25-20km/℃と比較的暖かい地温勾配だった時に沈み込む(2)沈み込んだ柘榴石緑簾石角閃岩は沈み込み帯内部でとどまる間に内部の冷却が開始され、地温勾配は少なくとも15km/℃まで低下する。(3)柘榴石緑簾石角閃岩と緑簾石角閃岩はNa角閃石がさらに成長する後退期変成作用が推測される。この一連の温度圧力履歴は、Okamoto(2016)で求められた時計回りの経路と反時計回りの経路を示す変成作用の温度圧力履歴を持つテクトニックブロックが合体して一緒に上昇するモデル(Gerya, 2002)で説明でき、三波川変成帯の西五良津岩体のエクロジャイト(Endo et al, 2012) やインドのNagalandオフィオライトコンプレックスの角閃岩(Bhowmik and Ao, 2016)などと同様の変成温度圧力履歴からのテクトニクス像が推測されている。