JpGU-AGU Joint Meeting 2020

講演情報

[E] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP40] Thermal structure of subduction zones: modeling and the rock record

コンビーナ:サイモン ウォリス リチャード(東京大学)、永冶 方敬(東京大学大学院理学系研究科)、吉岡 祥一(神戸大学都市安全研究センター)

[SMP40-06] 沈み込み帯大陸モホ面周辺における温度構造:西南日本三波川変成帯 汗見川地域の例

*纐纈 佑衣1貞本 和志1梅田 隼人2河原 弘和3永冶 方敬4田口 知樹5森 宏6ウォリス サイモン4榎並 正樹7 (1.名古屋大学大学院 環境学研究科、2.DOWAメタルマイン株式会社、3.石油天然ガス・金属鉱物資源機構、4.東京大学 理学研究科、5.京都大学 大学院理学研究科、6.信州大学 理学部、7.名古屋大学)

キーワード:温度構造、三波川変成帯、炭質物ラマン温度計、モホ面、スロー地震

過去に沈み込み帯で変成作用を被った変成岩には、沈み込みから上昇に至るまでの変成履歴が記録されており、鉱物組合せや化学組成などから温度情報を復元することが可能である。しかし、変成岩に記録された温度情報の多くは上昇時の後退変成作用によって上書きされており、モデル計算から予想される温度構造と、変成岩の解析から得られた変成温度が一致しない事例が多々報告されている (e.g., Uehara & Aoya, 2005_Tectonics; Penniston-Dorland et al., 2015_EPSL)。本研究では、沈み込み型変成帯の代表例である三波川変成帯に着目し、岩石に記録された温度構造と変形構造を広域的に比較することで、岩石学的に得られた温度の意味について考察した。

本研究では、四国中央部汗見川地域において南北11km, 東西7 kmに相当する領域で採取された泥質片岩計126試料のピーク変成温度について、炭質物ラマン温度計を用いて見積りを行った。本研究における調査対象地域は、古くから調査が行われており、数多くの構造地質学的・岩石学的データが蓄積されている。得られた温度は、調査地域の南から北に向かって288℃から553℃までほぼ連続的に上昇する傾向を示した。温度範囲は、先行研究で報告されている変成分帯のおおまかな温度構造と調和的な結果である。一方で、調査地域の3ルートすべてにおいて、約380℃から不連続に約440℃まで上昇する温度不連続が確認された。温度不連続境界の周辺には、ピーク温度期から上昇期に変形したとされるDs期の大規模な横臥褶曲が発達しており、400℃付近の温度欠損領域は変形によって地下に折り曲げられた結果であると解釈される。

400℃という温度は、熱モデルと比較すると、暖かい沈み込み帯において、スラブがちょうど大陸モホ面と接する領域と一致する。よって、汗見川地域で得られた温度構造のうち、温度不連続面よりも低温側が大陸地殻と、高温側が蛇紋岩化したウェッジマントルと接するスラブ領域であったと解釈される。そして、三波川帯がピーク温度を経験した後の上昇期に、接する物質 (蛇紋岩か大陸地殻物質)との結合強度の違いによって、スラブの上昇のしやすさにコントラストが生まれ、その結果、大陸モホ面深度において上昇するスラブ内に変形が集中し、温度不連続面及び大規模な褶曲が発達したと考えられる。

本研究において、三波川帯の上昇期の温度構造と変形構造の関係を明らかにした。この結果は、沈み込み帯の温度構造に関するモデル計算において重要な制約を与える。また、大陸モホ面境界に相当する深度は、近年注目されているスロー地震が発生している領域と一致するため、本研究が提唱する温度不連続面は野外において過去のスロー地震の痕跡を探すガイドになり得る。